零の旋律 | ナノ

第七話:それでも構わなかったはずなのに


 銀髪にとって、千朱の登場は予想外だった。その後水渚は自分の元から離れることだろうことだけは、千朱が出現していた時から予想がついた。水渚は千朱を選ぶと、ただ一人誰かを選ばなければいけなくなった時、迷いながらも千朱を選ぶだろうと。
 その予想は当たった。背中を押したのは栞だったが。多分栞が背中を押さなければ水渚は迷いながら此方側に留まり。そして迷いながら死んでいったのだろうと。
 栞はそれをさせたくなかった。だから栞は水渚の背中を押した。
 銀髪は笑う。どんなに予想を立てようともその予想通りに物事は進まない。何かのきっかけで構想等崩れ去るものだ、と。
 しかし――自分たちが数百年かけて積み上げてきた自分たちが死ぬための最後の手段だけは崩れさせない。必ず達成させてみせる。拳を強く握り締める。

+++
 王宮、それは政府が管理管轄する政府塔よりも遥かに荘厳で歴史を感じさせる場所だった。
 大理石で造られた床、細かいレリーフがなされた壁。一面を白で飾り、紅い絨毯が王との謁見室を繋ぐ。
 謁見室に入ると、白髪で真っ白になった髪だが、一房だけ赤毛が混じっている。七十代と思える老人だが、その顔は威厳に満ちている。
 紅いマントをはおり、椅子に頓挫する姿はまさしく王を彷彿させる。
 突然の来訪者に王は眉を顰める。

「玖城家に雅契家に――志澄家……何用だ? そちらの少年は」

 王にとって貴族である彼らを知らないはずがない。
 ただ、悪名名高い貴族衆が自分の元へ何の用事でやってきたのか――普段であれば翆鳳院家か鳶祗家が一緒に行動することが多いはずなのにと何故だと疑問は湧く。
 王宮に訪れる時、彼らが翆鳳院家と鳶祗家を連れて歩くのは余計なトラブルを回避するためだ。
 見知らぬ少年に自然と視線がいく。白髪に一房だけ赤が混じった髪の毛。何よりその顔立ち――鼓動が速くなる。そんなはずはないと心の中で否定する。だが、その否定を玖城泉が裏切る。

「名前は朔夜。朔良(さくら)と夜理(よるり)の息子だよ」
「――なん、だと!?」

 驚愕のあまり、椅子から立ち上がる。今――何と云った。
 頭の中で言葉の意味を整理しようとするが、頭が真っ白になる。

「そのままの意味だ、駆け落ちした王族と騎士から生まれた子供。あんたの孫だよ」
「……今までその存在を知っていて、私に黙っていたな」

 冷静に努めようと、声色を低くする。それでも僅かに声は震えていた。

「……さぁな」

 王の視線は泉に向いている。この中で最初からそのことを知っていた可能性があるのは、情報を司る玖城家当主だけだ。他の二人は玖城に後から聞いたに違いないと。泉は肩をすくめるだけで答えを云おうとはしない。泉は元々、知っていたわけではない。
 泉が罪人の牢獄を訪れた際、郁が快適に過ごせる為に篝火たちの過去を調べた。
 その過程で朔夜が駆け落ちした王族の息子だと知った。その瞬間理解した。銀髪が裏で糸をひいていることに。ただ、その段階では、誰にも告げなかっただけだ。
 朔夜の過去が何であれ、それが郁にとって有害な存在でなければどうでも良かったから。


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