零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、何か食べ物作ってくるよ」

 銀髪は二人だけにしよう、そう思って移動する。温かい飲み物であった待って貰おう。
 コーンスープがいいかな、とあれこれ考える。自然と優しい笑みが零れる。
 それに慌ててきがついた銀髪は何をしているんだ、と自嘲する。

「……全く、僕としたことが」

 所詮は駒として手に入れた王と騎士でしかないのに――感情移入は必要ないと。
 朔夜を育てていくと決めたのも王族の駒として扱うためだと。
 朔夜の両親はいわゆる駆け落ちだった、騎士の家系に生まれた青年と、王族として育った女性。
 立場の違いはそこまでなかったが、両親に反対されると思いこんだ二人は駆け落ちした。
 駆け落ちしたことを知った銀髪はすぐさま二人に接触して、言葉巧みに罪人の牢獄へ案内した。
 罪人の牢獄で出来る限り最上級の安寧を二人に送ってもらう事にした。

「有難う」
「助かったよ、出会えてよかった」

 二人から感謝の言葉を貰ったこともあった。
 その度心の中では駒として利用するだけだから、感謝の気持ちはいらない、と返答したものだ。
 けれど――その心は何時しか移り変わっていったのだろうか。

「……全く馬鹿らしい」

 吐き捨てる。そうしないと、心情が代わりそうで。下手な感情移入は入らない。必要なのはどう駒を上手に育てていくか。それだけだ。貴重な王族、死なれては困る。生き伸びる方法を模索しなければいけない。
 銀髪はそう言い聞かせる。

 傷つき合ったもの同士が、傷をなめ合うように埋め会うように仲良くなるのに時間はたいしてかからない。
 自分一人ではない、一人ボッチではない。それがぽっかり空いた穴を少しずつ埋めていく。
 心の傷がゆっくりと消えていく。癒されていく。
 伏せがちだった朔夜の表情に笑みが、明るい表情が戻ってきたのは栞を連れてきて数日経った頃だ。
 同時期に栞も笑うようになった。お互いがお互い友達になった証だった。
 朔夜が笑ったのを見て銀髪は今晩の献立を考える。
 両親がなくなって暫くの間朔夜はまともに食べ物を食べようとしなかった。今なら食べてくれるだろう。
 しかしいきなり高カロリーのものを食べて体調を崩したら困る。胃に優しい食べ物にしよう、と材料を確認する。

「……水渚にも近々合わせてあげよう」

 そこで銀髪はもう一人、朔夜と同様に罪人の牢獄で育った少女の名前を上げる。
 水渚と朔夜を引き合わせなかったのは状況が違ったからだ。それと――銀髪としては朔夜には同性の友達も出来て欲しかった。だからこそ、まだ水渚に会うのは早いと判断していた。
 年も水渚の方が倍近くある。歳不相応に聡明な子で術を得意としている。無邪気さが見えるが、笑顔の裏に怜悧な頭脳で罪人の牢獄を生き抜いている。
 まだ十を過ぎたばかりだが、一人で罪人の牢獄――罪人達と対等に渡り歩く力を持っていた。
 何れ何処かの街の支配者になる、そう銀髪は確信していた。そして水渚には栞と同様に朔夜を守ってほしかった。そう願っていた。


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