第六話:傷の舐め合いだとしても +++ 栞は銀髪たちとシリアスから離れた後、時計台の上で遥か彼方を睨む。風が吹くたび、艶やかな漆黒の髪は舞う。 「朔夜……」 朔夜は何処にいる、視線をいくら動かそうとも――朔夜を見つけることは叶わない。最も、時計台の上からだ、人がいる程度の判断しか栞には出来ない。 栞は、水渚と千朱を引き合わせた事に後悔はしていない。二人はそうなるべきだった、とずっと前から思っていた。大嫌いという言葉で誤魔化さずに自分たちの思いに素直になってほしかった。誤魔化したり、気がつかない深層部の心を認めて欲しかった。 けれど、同時に寂しさもあった。ずっと一緒に笑いあってきた友達がいなくなる。ぽっかり空いた穴は埋められない。栞にとって水渚と千朱が大切なのと同様朔夜も大切だ。栞にとって朔夜は自分の心の穴を埋めてくれた存在。朔夜が望むのならば、何だってしてあげたかった。 その朔夜が此処にいない、不安が募るばかりだ。 「何処にいるんだ」 銀髪の殺されないといった言葉を疑うわけではない。銀髪もまた、栞の心の穴を埋めてくれた一人。 父親がいたらこんな感じだったのかなぁと思いはせた事もあった。 栞は父親の姿を知らない。物心ついた時から栞は母親と二人暮らしだった。漆黒の髪は父親譲りだと、母親は父親の話をしてくれた。猩々緋の瞳は母親からだ。元々母親に影を操る力はなかった、父親の遺伝だ。 父親と母親が一緒にいた期間はたった一週間だったと栞は母親から聞いていた。一週間の淡い恋。 現在父親がどうしているのか、生きているのか死んでいるのか全く知らない。父親を恨んだこともない。 母親が、大切なお母さんが常々話してくれたからだ。 けれど、大切な母親は賊によって殺された。無残に剣で貫かれて真っ赤な血を散らしながら。その血が自分の瞳と重なった。 その後の記憶はない。気がついたら賊は全て死んでいた。鋭利な刃物で切り裂かれた後。 すぐに自分が殺したのだと栞は気がついた。 手を真っ赤にした自分が瞳に映る。瞳と同じ色。 「うわわあああああああぁあ」 叫ぶ。叫ぶ 叫ぶ。涙が枯れるまで叫ぶ。紅い瞳から透明な雫が零れる。 どれくらい泣いただろうか、蹲って現実を否定しただろうか。けれど何度面を上げても見えてくるのは現実だけでしかなく、母親は生き返ったりはしない。 その時、赤以外のものが視界に映る。銀色だ。綺麗な銀色。ふと手を伸ばし銀の粉を掴む。 柔らかな、温かいぬくもりある手が栞の頭を撫でる。 「大丈夫かい?」 そのひと言で安らいだ。壊れた心は壊れた心のまま落ち着いた。 「誰?」 銀色の髪は眩しかった。屈託のない光があるようで。蒼い瞳が紅い瞳と交わる。 [*前] | [次#] TOP |