V 榴華の周りに水の沫が現れる。水渚を思いだす攻撃。 榴華は紫電を一振りして沫を焼き尽くす。 「……単調な攻撃なはずなのに、使いこまれている」 双海はボソリとはく。榴華の強さを認識していた。このような強さを持った人物が罪人の牢獄にいた事が信じられなかった。ましてや双海と年齢的に見てもたいして変わらないだろう。 光の剣が榴華を殺そうと双海の前に無数に現れ、それらは勢いよく榴華に向かって一直線に放たれる。 榴華は剣を踏み台にして双海に近づく。近づいて紫電を放とうとすると榴華の前に無数の花が現れ視界を覆う。 「ちぃ何だ!? お前のそれは」 魔術を詠唱している素振りもない。魔術を使っている様子はない。 何より属性攻撃、というより物そのものを具現しているように映った。 一体この攻撃は何か、榴華には理解出来なかった。パターンが豊富すぎてパターンを掴むことも出来ない。 「さぁ何だろう」 双海は軽く目を瞑る。余裕の表れか。 水波の弓が途中で無数に分裂する。蔓がそれらをこぼすことなく全て絡み取る。 何時までも続くと思われた攻防戦は一人の少年によって終結させられる。 「双海―!」 双海の後ろから、てとてとと小走りしてくる白髪の少年がいた。愛らし瞳に敵意はない。 双海は手を前に出して、榴華と水波達の間に土の壁を創り出し、榴華の攻撃を防御する。 「繚(れう)! どうしたんだい?」 「怜様が呼んでいるよー」 「怜都が? じゃあ戻ろうか」 「うん。処で彼らは?」 「一応敵」 「一応?」 白髪の少年は首を傾げる。 「今のところは敵だけど、将来は敵かどうかわからないってこと」 「成程。でもいいの? 戦っていたみたいだけど」 「いいよ。彼ら強いみたいだから、時間を食うしね」 「んーわかった。怜様を待たせたくないし」 「じゃあ戻ろう」 呑気な会話をして――既に榴華たちの事が目に入っていないかのように、そのまま背を向けて歩きだした。榴華が攻撃を繰り出した処で、双海はその不思議な術によって攻撃を全て塞ぐのだろう。 榴華は呼吸を整えるように深呼吸をする。 「今日は規格外の奴らとしか出会わないのか?」 「お前も充分規格外だ」 篝火の言葉。榴華は苦笑する。榴華はその場に座りこむ。流石に少し疲れた。 「お前でも体力的に疲労することがあるんだな」 「俺は別に底なしの体力を持っているわけじゃないし、第一単純な体力ならお前の方が多分上だ」 体力を使う事は今まで余りなかった。榴華の圧倒的な戦闘力の前では長期戦など殆ど無意味。全て榴華が一瞬のうちに蹴散らしていたからだ。しかし、銀髪と対戦して以降、そんな相手ばかりではない、自分と同格な相手が沢山いた。 怠けていたわけではないし、過信していたわけでもないが。自分の力を否定されるような錯覚に陥る。 「そうか? まぁ朔夜とかよりは体力ある自信はあるが」 「基準が下すぎるだろ、どんだけ底辺から比べるんだ」 「俺としては減った体力を回復するためにパンを食べたい。パン。水波この界隈で美味しいパン屋を知らないか?」 篝火は期待の眼差しを込めて水波を見る。 「いや、流石にパン屋に関してまではわからないや」 途端篝火は落胆する。 [*前] | [次#] TOP |