T 「別にちょっとした野暮用。君たちに用はないから安心していいよ」 「それで安心出来たら苦労はしないよね」 「まぁそうなんだけど」 ゆったりと喋る。林檎を齧るのを止めない。そのどれもが余裕に思えてならなかった。 「――!」 榴華は紫電を放つ。突然攻撃したことに篝火は驚いたが、何も云わない。 双海は特に動く素振りを見せなかったが、代わりに軽くやれやれと一瞬だけ目を瞑った。 紫電が双海に到達する瞬間、紫電が消える。 「――!?」 紫電は何処へ消えた。何故紫電が届かなかった。榴華にはわからない。 「……何をしたいの?」 林檎は何時の間にか食べ終わっていた。榴華は本能で危険だと察知し空中へジャンプする。その瞬間今まで榴華がいたところに蔓が生えていた。それは榴華を絡め取るべく現れたもの。 「何だ、これは!?」 後一秒遅ければ蔓に囚われていた。榴華は危険を感じ紫電を纏う。 榴華は直感で双海が危険だと判断した、その直感に従って攻撃をした。それが間違いだとは思わない。 事実、榴華の攻撃を簡単に消し去り、危険だと思わせたのだから、実力は並大抵のものではない。 「別に私に戦意はないんだけど」 いつの間にか再び林檎を齧っている。何時取り出したのか篝火は記憶を手繰るが一向にわからない。突然林檎が手の中から現れたようにしか思えなかった。 「お前、何だかわからないが危険だな」 「危険、だからって排除しようと考えるのは愚直だよ」 「……お前は敵なんだろう?」 「敵、ね。まぁ今のところは敵でしょう」 「今のところは?」 「私が仕えているのは怜都であって、銀色じゃないからな。だから怜都が銀色に仕えている間は、敵だろうけど。その後は知らない」 それはどちらでも構わないという意思の表れ。怜都が彼らの味方になるなら味方になり、敵になるなら敵になる。 「なら、今のうちに殺しておいた方が得策だ」 今なら――双海一人しかいない。手っ取り早いと榴華は判断した。 どの道、敵は殺すのであれば遅かれ早かれ変らない。今か、後かの違い。 「おい、榴華」 篝火は止めようとしたのか声をかけようとしたのか。言葉に迷う。 榴華は地面を蹴る。その早さは目視するのがギリギリ。紫電を纏った榴華に並大抵の攻撃は通用しない。 「全く交戦的なんだから」 双海はやれやれと肩をすくめる。林檎は食べ終わったのだろう。消えていた。 [*前] | [次#] TOP |