第五話:境目 血の惨劇と化した場所で、榴華は水波へ問う。 「おい、水波お前わかっていたんだろ」 何を、とは云わない。水波は誤魔化すように笑った後、真摯な顔になる。 「まぁね。少しでも相手の数を減らしたかったし……それにね」 「それに? まぁいいや。篝火お前は大丈夫か?」 「あぁ、問題ない」 朔夜と戦っていた時、朔夜は本気で攻撃してこなかった。雷は何処か甘かった。隙があった。 しかし篝火は朔夜に近づくことが出来なかった。近づいて攻撃をする真似をしたくなかった。 例え立っている場所が違っても朔夜を敵だと認識することは出来ない。朔夜は何処まで行っても仲間でしかないのだから。 「銀髪の甘さを確認したかったってのもあるよ。実際水渚ちゃんとかには甘かったわけだし」 千朱と水渚を再会させる為の布石を銀髪は打った。そしてそれに水波も応じただけ。会話もやりとりはなくとも、罪人の牢獄で暫くの間第三の街支配者として過ごしてきた水波には今回の銀髪の行動は手に取るようにわかった。 「迷いが後後の作戦に支障をきたすって表の理由であるんだろうけど、裏の理由は全く別だよね。けど、彼が狂っているのには変わりない」 ――世界を滅ぼすのだから。例えそれが人々の罪に寄る結果だとしてもそれを見逃すことは出来ない。例え自分自身が復讐者だったとしても。 それは矛盾。 「さて、じゃあ戻ろうか――って」 そこで水波は振り返る。榴華と篝火は既に振り返っていた。罪人の死体がいつの間にか消えている。血の海もだ。あったはずモノものが消えている。そして罪人の死体があった場所に悠然とたち、林檎を齧っている人物がいた。 「――確か君は双海」 警鐘が水波の中で鳴り響く。その姿に見覚えがあったからだ。水色の髪は腰まで伸ばされており、下の方で一つに纏められている。燕尾色のコートを羽織、黒と灰色のストライップのワイシャツを着、銀糸の布を腕にかけている。何処となく気崩した雰囲気を漂わせる。紫の双眸が三人を順番に見て行く。 「噂通りのイメージだね。軍師水波瑞。そちらは誰か存じないけど……罪人かな?」 「ご名答。だけど何故君が此処に?」 此処に来るのは銀髪達だけであった。仮に双海が銀髪サイドの人間だとしても、予想外だった。裏をかかれた気分になる。 [*前] | [次#] TOP |