T 栞をきれさせるな――それは朔夜が自分への忠告の言葉。最初は半信半疑でしかなかった、けれどそれは今や信じるしかない。栞を切れさせればのちの何があるか予想もつかない。 それと同時に他の言葉も思い出す。水渚か、罪人の牢獄支配者を頼れと、確かに言っていた。 「俺も探す」 栞一人にしてはいけない、篝火はそう判断し名乗りを上げる。 「自分も手伝うわぁ」 篝火のような考えがあったのか、ないのか榴華も名乗りを上げる。 「有難う、全員で探しても仕方ないから個別に探そうか。じゃあまたあとで」 一刻も早く探しに行きたいのか、殆ど早口で言ってから、栞は唐突に消える。何の術を使って移動を可能にしているか、術者ではない篝火たちには理解出来ない。雛罌粟辺りならば、解説してくれるかもしれないが、この場に雛罌粟はいない。 「榴華、水渚が何処にいるか知っているか?」 「知らんわ」 「だよなぁ……」 水渚がいるとしたら二か所。崩落の街か最果ての街。どちらも第一の街からいくには近いとは決して言えない。都合良く第一の街にいてくれ――と、ほんのわずかな望みさえ願ってしまうほどに。 「水渚っちの力が必要になるかもしれんからなぁ」 水渚が栞の抑制になるのなら、と榴華も同意する。一番の抑制は朔夜なのだろうが、現状その朔夜はいない。 「篝火は水渚っちを探してくるとええよ。何かあったら自分がシオリンをとめといてあげるから」 「あぁ、頼んだ」 榴華の、罪人の牢獄最強と呼ばれる戦闘能力を篝火は信頼している。榴華の後に続いて篝火も自宅を後にする。 +++ 朔夜は目を覚ますと、暗くて何も見えない。頭部に痛みを覚える。殴られた記憶がよみがえる。 あの時と同じだ――と朔夜は嘗て、罪人の牢獄支配者に取って代わろうとした第三の街支配者が起こした事件を思い出す。 あの時と同じにしてはいけない、と身体を朔夜はよじるが、両手を後ろで縛られていて身動きが取れない。 一体誰が何の目的に自分を誘拐したのか――可能性が複数あり絞りきることは出来ない。 「目覚めたか?」 男性の声がすると同時に部屋の明かりがつけられる。暗闇に慣れた瞳は眩しさに耐えられず顔を顰める。 「自分が何故攫われたか理解していないようだな?」 四十代後半の男は朔夜の前に座り、目線を合わせる。 「あったり前だろ!!」 朔夜は怒鳴る。現状を忘れて。身動きの取れない状況で相手の機嫌を損ねる必要はない、そうは理解していても理不尽な現状に怒りを抑えることは出来ない。 「お前さ」 しかし男は冷静だ。 「王族なんだって?」 「――!? どうしてそれを?」 「噂は信憑性零ってわけではないのさ。噂には噂となる根本がある。それを聞いた時は嘘だと疑ったが、しかし王族だと考えるなら銀髪がお前を大切にしている理由に繋がるしな」 この男は嘗て自分が誘拐され、なお且つ銀髪が助けに来たことを知っていた。 かなりの古参だということがそこで判明する。 「……」 「しかも今のお前の反応を見て確信した」 鎌をかけられたと気がついた時には既に遅い。王族と相手を理解させてしまった。 「俺をどうしたい?」 頭部を殴られた以外の怪我は見られない。相手は必要以上に朔夜を傷つけないようにしている。 「お前が王族なら、使い道はいくらでもあろうだろう」 いくらでも――それは言葉を換えれば銀髪を利用することに他ならない。 この牢獄で王族が意味を持つことなど殆どない。 [*前] | [次#] TOP |