零の旋律 | ナノ

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 他人を駒のように扱い、斬り捨てる。残虐非道なる策士。しかし、完全に冷酷になる事は叶わなかった策士。情が何処かに生じてしまう。長く一緒にいればいる程。
 そう言った意味では雛罌粟が一番長い間一緒にいるのでは、と榴華は思う。
 榴華が罪人の牢獄に来たときから既に罪人であり、雛罌粟は銀髪を除けば一番の古参という話だ。
 雛罌粟がどのような罪を犯して罪人の牢獄に来たか榴華は知らない。
 しかし、雛罌粟も実は朔夜同様厳密には罪人ではないのではと榴華は思っている。
 罪人らしくない性格。雛罌粟が罪人だとするなら、雛罌粟が犯しそうな罪とは一体何か、考えた処で浮かばない。それほどまでに罪の想像が困難だった。逆に言えば、朔夜の方が罪を想像しやすいといえた。

「全くだよねぇ。最も魔術師が朔夜を誘拐したのは、私にも予想外の出来ごとだったのだけれどもね」
「だろうな。だが、私にも、ということは銀髪にとっては予想の範疇だったということか?」
「それはわからないところだねぇ。しかし、誘拐されたことで決意が変わるかもしれない。それならば私らは私らで納得しようではないか。だから今回の事は是で全て思惑通りなのだよ」
「全く、とんだ捻くれた策士だこと」

 水波は最初からわかっていた、その上で行動した。榴華はそう直感した。
 だからこそ悧智や砌がこの場にいない。水波と榴華、篝火、千朱だけで来た。いくらなんでも不老不死を相手にするにしては人数が少なすぎる。水波にいたっては弓を構えてはいるが、一本も放っていない。
 最初からわかっていた上で連れてきたのだからとんだ軍師様だ、と心の中で笑う。
 そのことに今の今まで気がつかなかった自分もまた滑稽だ。
 銀髪にしろ、水波にしろ掌で踊らされているのだから、今までも今も。

「さて、では私は撤退しようかなぇ。そこから先を選ぶのは少年少女たちなのだから」
「少年少女って年齢でもないだろう」
「私の年齢からすれば少年少女でしかないだろう」
「それもそうか」

 虚の正確な年齢等しらないし、興味もない。ただ榴華より遥かに長く生きている。その事実だけで充分だった。下手に感情移入してはいけない。

「だから、さようならだよ」

 銀色の粉が舞う。それと共に虚の身体粉のように散っていき姿を消す。ふと周りを見渡せば銀髪も栞もいなかった。後に残ったのは罪人の死体。血の海。栞が殺戮を犯した後。


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