零の旋律 | ナノ

V


「無駄なお喋りばかりしてしまうねぇ。私は元々お喋り好きだから仕方ないのだろうか」
「下らない無駄口だとは俺は思っていない」

 虚を垣間見る事が出来る。それがどれ程歪んでいようと、狂気に犯されていようと。それが虚でしかない。

「そうかい? なら嬉しいところだねぇ」
「それにしても――」
「なんだい?」
「お前の愛しき弟は身内には甘いんだな」
「おやおや見抜いていたのかい」

 虚苦笑いしながら、視線を銀髪へ移す。榴華から視線を外し、榴華への注意を怠っている。しかし榴華は攻撃に移らなかった。移ったところで、虚はその瞬間榴華を見据え攻撃を軽く交わす。
 それがわかりきっている。

「あたり前だ。お前の言葉は真実と虚実が入り乱れているな」
「名前が虚。なものでね」
「……まぁいい。危機感を煽るというのなら、こんな田舎でやったところで意味がない。第一梓や雛罌粟といった面子もいないしな。いるのは多数の罪人とお前、銀髪。そして水渚、栞、朔夜だけ。ならば簡単だ。朔夜達に選択させたのだろう。まだ迷いがあるから」
「ご名答さ」

 袖と袖を合わせて腕を組む。

「選択させたかったんだろ、後悔しない選択を。対面することで揺らぐ事がわかっていたから」
「そうさ。全く敵や同胞には優しくないのに身内となると甘いのだよあれは。狂っているけれど狂いきれていないのさ、私とは違って」
「そうかもな。お前なら唯一大切な弟以外全てを手にかけることも厭わないのだろう」
「だからあれは、狂っていて狂っていない。だからこそより一層葛藤してしまうのだけれどもねぇ。まぁ仕方がない。それが人間なのだから。水渚は千朱のことで悩んでいたし、朔夜は篝火のことで悩んでいた。栞も色々葛藤していたみたいだけど、私はあれが何を考えているかはイマイチよく理解出来なくてねぇ」
「同族嫌悪みたいなものか?」
「……かもしれないねぇ」

 栞と虚は性格の面で何処か似ていると直感的に榴華は感じた。
 直感でしかないが、それが正解だとも感じていた。
 虚は銀髪の為であれば、何をするのも厭わないし、銀髪の為に動く。それは朔夜や水渚、千朱の為に動く栞を彷彿させるのに充分すぎる材料だった。だからこそ、虚は栞の事を理解出来ない。

「全く、銀髪は最低でしかないはずなのに――甘い処が残っているとは」


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