第四話:策士の思惑 +++ 朔夜は何が起きたのか理解するまでもなく、気がついたらある部屋いた。何処の部屋か皆目見当もつかない。ただ、その部屋にあった色がある人物を彷彿させただけ。 「……」 現状を理解しようと必死に頭を働かせるが、そもそも律とカイヤが一緒にいる理由もわからない。 首を捻り周囲を見渡すと、そこに一色以外を拒絶する色――否、人物が目に入る。 「泉!?」 「久しぶりだな」 「久しぶり」 今度は素直にそう思う。泉とは二年以上顔を合わせる事はなかった。 二年の歳月を感じさせないほどに泉は昔のままだった。一点の光を許さないような黒。全てを拒絶するような闇。二年前以上に他者を拒絶するような瞳。 「何故俺を……?」 状況は全くと言っていい程理解出来ない。 「お前は深紅の王族だからな、お前の祖父に合わせようかと思って」 「……つまり俺を王族として利用しようって魂胆か?」 「それもある。だが、会ってみたいとは思わないのか? 祖父に」 朔夜と知り合いである泉が会話を進める。カイヤや律は腕を組んで黙っている。 「俺は、駆け落ちした両親の子供だ、そんな子供に会いたいと思うのか……?」 拒絶されるのでは、という不安。会ってみたくないといえば嘘になる。 「いくら駆け落ちしたからって孫を嫌う道理はない。それに王はそんな器の小さい男ではない、安心しろ」 「……」 「会いたいか、会いたくないか二択だ。決めろ」 態々合わせる為に誘拐してきた訳ではないことを朔夜は百も承知の上だ。承知の上で 「会ってみたい」 答える。 「そうか」 その返答が最初からわかりきっていたように、表情を変えない。 泉はそういう奴だ、と朔夜は思う。最初出会った時から大切な人以外のことに関しては――どうでもいいのだ。そして、策略を張り巡らせる事に長けている。膨大な情報から成せる業か。 「……泉、代わりに」 何が代わりになのだろう、朔夜はそう思いながら問わずにはいられなかった。今自分が払える対価はない。 「あの場がどうなったのか教えてほしい」 「それくらいお安い御用だ。御希望なら実況中継だってしてやるさ」 「助かる」 有難うと言いそうになって言葉を変える。伝える言葉は有難うではないと。 +++ 篝火は呆然としていた。目の前で起きた出来ごとを理解しようと必死に思考を巡らす。 カイヤと律が一緒にいる事は別段不思議ではなかった。しかし朔夜を“今さら”求めた事が不思議だった。 朔夜を誘拐するのなら、今まで機会はいくらでもあっただろう、それを敢えて乱戦と化したこの場で誘拐することに何の意味がある、と。しかし考えた処で答えは見つからない。 [*前] | [次#] TOP |