第三話:誘拐? +++ 眩い光とともに、地面より宙に浮いた場所で魔法陣が具現する――篝火と朔夜の間に、正確には朔夜よりに。何事かと、目を細めながらと篝火と朔夜の手が止む。光が収まると同時に現れたのは、白髪の少年――否、青年。篝火と朔夜にとっては見覚えのある姿。 白髪の髪に赤い瞳、愛らしい顔はしかし人を人とは思わない残酷な一面が隠れている。雅契家当主雅契カイヤ。 「何でお前が!?」 朔夜が驚愕のままに叫ぶと同時に、現れたのはカイヤ一人ではなかったことに気がつく。 ひやり、と首元に当たる何か、何事かと理解するより先に本能が動くなと告げる。背中からは冷や汗が流れる。 「よぉ、久しぶり」 久しぶりの言葉が正しいのかわからないが、朔夜は 「久しぶり……」 辛うじて答える。他の言葉が見つからないからだ。冷たい無機質の物体――ナイフが首元に突きつけられ、一歩でも動けば鋭利な刃物は朔夜の首を斬る。 朔夜が目線をずらすと、青紫の髪が視界に移る。朔夜の正面にいる篝火の目からははっきり見えた――ピンク色の帽子が。 「カイヤと律、何故」 「何故? あぁ篝火ひさしぶりーんってもあったばかりだけどね。ちょっとヒトサライにきました。律律が。僕はそのお手伝い」 この場にそぐわない無邪気な声で言う。攫う、誰を攫うかは明白だ。カイヤがぴょんと後方に跳ねて律と朔夜の元へいく。そしてそのまま魔法陣が再び具現したかと思うと同時に三人の姿はなかった。 「朔夜!?」 篝火が名前を叫ぶより先に銀髪が叫んだ。 「おや、深紅の王族を誘拐しようとは」 虚がゆったりとした声でいい 「朔!!」 「朔夜!」 篝火と栞が声を揃えて叫ぶ。朔夜が誘拐されるとは誰も予想だにしていなかった。 「……まさか朔夜君を誘拐するとは」 流石に水波も呆然としている。 栞はすぐさま追いかけようとするが、銀髪がそれを止める。 「何処にいるかもわからないのに、追いかけるのは無謀だ!」 銀髪は栞の腕を掴む。そうでもしないと、栞は一心不乱に朔夜を追う。誘拐していったのがどういった巣窟か知らずに。 「離せ! 朔が、朔がっ……! 何処にいるかなんて関係ない、何処にいようと見つけ出してやる」 朔夜の事になると普段は飄々とし冷静な栞も取り乱す。 「止めろといっているんだ! 朔夜は殺されることも何もない!」 「何故そんなことを云い切れるっ……?」 「態々誘拐したからに決まっている。それに誘拐した相手はいくらお前だって一筋縄じゃいかない相手ばかりだ、お前が殺される!」 語尾を強めた銀髪に少し落ち着きを取り戻したのか、栞は銀髪の方を振り返る。 「何故……朔は誘拐された」 「恐らく王族として朔夜を使おうとしている。だから殺されることは何もない。相手は一癖も二癖もある奴らばかりだ、栞一人が挑んで無残に殺されたらどうする、それこそ元も子もない。第一あいつらが何処にいるかわからないんだ、見つけ出すことは容易じゃない」 栞を宥めようとする、その姿が篝火には何処か異様に思えた。他人の事を駒の用に扱うはずなのに、銀髪のその行動は何処か――違った。駒と見ていないような、何か不自然さであり、自然さが、そこにはあった。 「それに、いる場所がわからなくとも向かう場所はわかる」 「何処!?」 「後で教える。まだそこには向かわない自信がある。冷静じゃない栞をいかせるわけにはいかない」 「……わかったよ」 栞は渋々だが承諾した。銀髪の言葉通りだったからだ。 [*前] | [次#] TOP |