V 榴華自身、元が翡翠なのか紫電なのか判断がつかない。けれどどちらでも良かった。 この力で柚霧を守り続ける事が出来るのなら、けれど叶わなかった。 無力さに苛まれる。井戸の中の蛙だったとは思わない。 「そのアマちゃんさが命取りになるぞ?」 「わかっているよ。何せ君を相手にしているのだから」 「はっ、お前は何もわかっていない」 榴華の紫電が地を這う。大地にひびを入れる。栞は襲いかかる紫電を前にして確実に見切ってから姿を消し、別の影の場所に移動する――現れる場所を予め知っていたかのように、姿を現した瞬間紫電が栞を襲う 「――!?」 栞は慌てて回避行動をとる。間一髪のところで別の影に移動する。口元が引き攣っていた。 「あはは、全く遠慮がない」 「無駄口を叩く暇はないぞ」 息を整える間もなく、紫電が蛇のように襲いかかる。栞は拳銃でさりとて攻撃するわけにもいかない。紫電に銃弾を放ったところで意味がなかった。 「本当に隙がない」 栞は影を使わず一つ一つ確実に交わす。その動きは優美で踊りを踊っているようにも映る。 艶のある髪の毛が揺れる度、栞の容貌を際立たせる。 「厄介だよ、本当に榴華は」 栞は拳銃をしまう。このまま拳銃を扱っていた処で榴華まで銃弾が届く事はない。 代わりに真っ黒な、一寸の光を許さない漆黒の短剣を創り出す。それは影で出来た代物。影を殺す武器。 榴華がそれを確認した途端、表情を引き締める。影と自分双方に気をつけなければいけない。影を斬るのなら紫電すら斬られるだろう。 「俺は――君を殺したくなかったのに」 “殺さず”から“殺戮者”へ変貌する合図。 沫が舞う。無数に、子供がシャボン玉を宙に浮かべはしゃぐように無数に。 沫は意思を持って千朱に向かう。千朱は何時もの事のように軽く泡を交わし水渚の元までたどり着く、拳を握りしめ水渚を殴ろうとすれば、水渚が何時もの事のように軽く交わす。 軽やかな動きで双方互いをけん制しあう。何度も刃を交えたからこそ、攻撃のパターンがわかる。 「千朱ちゃんは相変わらず簡単にはくたばってくれないのだから嫌になるよね」 何処か切なく、楽しそうに 「その言葉そっくりそのままお返しするさ」 違和感。何だろう――何故、何故、何故と千朱は自問自答を繰り返す。 水渚と戦うのが、水渚と一緒にいるのが楽しい。とてつもなく。 一歩間違えれば死ぬという場面でありながら、楽しかった。 そう、水渚と同様に切ないのに楽しく。 [*前] | [次#] TOP |