零の旋律 | ナノ

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 榴華は栞の前に立つ。他の面々何を思い戦っているか榴華にはわからない。わかろうとも思わないが一つだけ自分のやるべき事をやろうと思った。再び銀髪に突っかかっていったところで返り討ちにされるのがオチならば、栞を他の相手の元へやらないようにすること、それが自分の取れる最善の行動だと核心していた。何の力で、栞が相手を一瞬のうちに殺戮するのか榴華は知らない。けれど、その殺戮能力は折り紙つきなのは知っている。

「榴華、なんで俺の前に来るのかなぁ?」

 栞は飄々とした態度を崩さないながら、眉間に皺が寄る。

「そりゃあ、適任だろ?」
「……俺としては榴華とやりあいたいとは微塵も思っていないよ」

 本心を語らない飄々とした態度、柳の用にしなやかな態度は嘗ての自分を彷彿させる。似ているとは思わないが性質は同じだと榴華は思っている。恐らくは栞も同じことを思っている。

「俺だって得体のしれないお前の相手を率先したいとは思っていないさ、けれどそれが最善なら、そうするまでだ」
「全く、口調が素に戻ったかと思えば――冷静なんだね」
「冷静だと思っているとしたら、お前の瞳は節穴だな」
「冗談。だって冷静だと偽ろうとしているから、冷静ってわざわざ親切にそう思ってあげたのに連れないんだね」
「お前と仲良くなりたいと思ったことは生憎一度もない。最もあの時、柚を助けてくれたことには感謝している。感謝しても感謝したりないくらいだ」

 嘗て、罪人の牢獄に柚霧が先にやってきていた時のこと、街までたどり着けずに倒れていた柚霧を発見し、雛罌粟の元まで連れて行ったのが栞だった。榴華はそのことに関しては栞に感謝している。

「……」
「だけど、お前と仲良くなりたいとは思わないし、銀髪と一緒にいるお前と友達になりたいとも思わない」
「なら、俺らは敵同士だ」

 一瞬目を瞑る。敵として認識するために。栞は薄香の拳銃を握り締め標準を榴華に合わせ発砲する。それと同時に榴華は一瞬ともいえる早さで間合いを詰める。紫電を纏わせながら。
 榴華の蹴りが栞を捕えるが、栞は一瞬で姿を消す。榴華はその殺気を頼りに栞が姿を現し、銃を発砲した場所を掴み、銃弾を蹴り飛ばす。栞の方へ銃弾は向きを変え襲いかかるが栞はまたその場から姿を消し、別の方向へ姿を現す。

「銃弾って普通蹴るものじゃないでしょ――全く、規格違いなんだから榴華は」

 苦笑い。栞の拳銃は栞が銃で造り出した弾によるものだ。弾数を気にする必要はない。

「素早い動きではない、それはなんだ?」

 眼で追えない速度で移動しているのではない。視界から消える。
 そして別の場所へ移動している。それが栞の移動能力。銀髪と同じように、いたと思った場所から消え別の場所に悠然と姿を現す事が出来る。

「影」

 栞は端的に応える。


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