第二話:素直な気持ち 水渚が向かった相手は真っ直ぐに寸分の狂いもなく千朱の元だった。 千朱も水渚と相対する。大嫌いだから。 「あはは、千朱ちゃんと真面目に殺し合いになるのは是で何度目だろうね、何度も何度も繰り返しているはずなのに――どうして僕らは生きているのだろう」 「さぁな、殺すつもりがあって、殺気もあって、殺意もあって、でも敵じゃなかったんだろ」 「かもしれないね。……ううん、そうだね。でも――今はもう敵だね」 今までとは条件が違う。千朱も水渚もお互いがお互い一緒に今まで通りになる道を選ばなかった。 「そうだな」 悲しみはない、何処か晴れやかな気持ちだった。何故、と問われれば答えられない。 「……大っきらいだよ、千朱ちゃん」 「あぁ俺もだ」 何処までも平行線でありながら、その線は重なりあっていた。 朔夜は迷いながら、篝火の元へ距離を開け近づく。 「篝火、悪いな」 「悪いと思っているならやめておけ、といいたいところだけれど、お前がそれを選んだのなら俺にとやかくいう権利はないだろう。自分で選んだ道だ、何か心残りがあったとしても自分でかたをつけるんだな」 「そう、だな。相変わらずお前は保護者だ」 「今なら――保護者でも悪くないかもって思えるよ」 「今さら過ぎるんだよ。お前は出会った時から保護者でしかないんだから」 「そんな昔からかよ」 「あぁ」 忘れられない確かな日々があるから。どんなにすれ違ったとしても仲間であった事は事実。 そしてそれは今も是からも変わらない。篝火が朔夜を敵として認識することはない。 朔夜の雷が篝火の周辺を覆い尽くす。態と外したわけではない。篝火を狙うつもりだった。 しかし身軽な篝火はすぐに回避行動に移った。 接近されれば朔夜に勝ち目はない。逆に接近させなければ篝火に勝ち目はない。そういう戦い。 「篝火と、殺し合うのは初めてだな」 共に背中を任せられる相手だった。お互いの戦法は嫌というほど知りつくしている。 「接近戦の弱さが仇にならないように注意するこったな」 「それは――お前もだろう。遠距離が苦手なんだから」 術を扱えない篝火にとって朔夜の元まで近づくのは容易ではない。朔夜も篝火が近付いてこないように細心の注意を払って攻撃している。 「だな」 朔夜の虚ろな瞳が篝火には気がかりだった。しかし気に留める余裕はない。余裕を持って戦える相手ではないことは篝火自身がわかっている。 朔夜は接近戦に置いては比類なき弱さを発揮するが、遠距離は別だ。無数の雷は脅威。 [*前] | [次#] TOP |