零の旋律 | ナノ

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 銀髪と水波のやりとりを聞いていた罪人の顔色が変わる。不安は波となり罪人に伝染する。
 銀髪は叫んだ、死ぬために世界を滅ぼすと。世界が滅べば自分たちも死ぬ。
 何のために銀髪に協力している――罪人達は銀髪の本当の目的を知らされていなかった。
 生にしがみ付いてきた彼らだからこそ、死を目的とする銀髪を信頼出来なくなる。不信感を抱き恐怖を抱き、恐れを抱き背信、裏切りを抱く。
 だが、それらが行動に移される前に全てが終わった。血に塗れる。土が赤い湖を創りだす。

「……目的を知った途端、掌を返す事は許さないよ」

 おごそかに告げる声は栞だ。

「君たちが下手な暴動を起こすのなら、“殺す”だけだし……まぁもう何を言っても遅いけど」

 既に殺してしまったのだから。殺戮に特化した力を用いて、栞は目的を知らない罪人を虐殺した。

「……栞お前」

 千朱が呆然とする。確かに栞は目的の為なら手段を選ばない節がある。大切な人の為ならどんなことだってする危うさがある。栞が嘗て第三の街罪人を大量虐殺した時の事を風の噂で知っている。
 栞の力を知っている。けれど、栞がいとも簡単に、埃を払うかのように罪人を一瞬で殺戮するとは思えなかったのだ。だからこその言葉。

「……千朱ちゃん」
「栞、お前……殺すのは嫌いじゃないのかよ」

 それだけをやっと絞り出す。ちゃん付けをする心理的余裕はなかった。

「殺すのは嫌いだよ。だから普段は殺さないけど、今は状況が違うからね」
「状況が違えば殺すのか」
「状況や目的理由言動、何でもいいよ。俺は、俺の為に人を殺すだけだから」

 誰かの為に、ではなく自分の為に、血に染まることを選んだ。

「もうね……いくら俺が殺すのは嫌いっていっても俺は数多の人の命を奪っているよ? 殺す時は一気に殺しちゃうからね」
 
 最初の殺人は自分たちが襲われた時。単なる強盗だった。自分の大切な人が殺されたその時強盗を全て殺した。自分の力を、恐ろしさをその時初めて知った。今でも栞は鮮明に覚えている。自分の手が、身体が、返り血に染まったあの時の光景を。

「俺はね、もうとっくに狂っているんだよ」

 誰にも聞こえない独り言。あの時、自分の力を知った瞬間に――だからこそ、心の拠り所を栞は求めた。

「……栞」
「千朱ちゃん。何でそんなに悲しそうな顔をするのさ、千朱ちゃんに悲しそうな顔をされたら困っちゃうよ」

 だから笑って、とはこの状況では云えない。それでも悲しい顔をされたくはなかった。今までずっと水渚に悲しい顔をさせ続けてきたから。

「俺はね、千朱ちゃん。我儘なんだよ」

 薄香色の拳銃をゆったりとした動作で取り出す――名残惜しそうに。

「水渚、朔。迷うなら、引き返すなら今のうちだよ」
「……僕が今さら何を迷うっていうのさ」

 嘘、と栞は告げたかった。水渚の言葉と本心が一致していない。直感で伝わる。

「俺もだ」

 嘘、と朔夜にも告げてあげたかった。
 偽りで塗り固めた本心は何時か崩れ堕ちる。
 けれどそれを伝える事は栞には叶わない。
 何故なら栞も皆と一緒にいたいから、伝えたい思いと、みなかった事にしたい思いが重なりあう。

「じゃあ、いこうか」

 せめて偽りの笑顔で塗り固め誰にも本心を見抜かれないように。
 知らなかったことに、なかったことに――出来ないから。


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