零の旋律 | ナノ

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「銀髪……いいや虚偽、君はどうしてそこまでして世界を滅ぼしたいの? 世界を滅ぼした処で君が死ねる保証は何処にもない。世界を滅ぼしても君たちが生きていたらどうするの? 他の可能性を全て捨てでまでも、最後の可能性に縋りたいのかい?」

 水波が銀髪の名を呼ぶ。滅ぼしたからといって死ぬとは限らない。不老不死の名の元、生き続けるかもしれない。何もない虚無の空間で。

「もし世界を滅ぼしても僕たちが死ねないのなら、その時は姉さんと一生、生きていくさ、何時か――身体が朽ち果てるかもしれない時を待ちながら」
「……そんなことは、そんなことは……ただ、辛いだけじゃないか!」
「あぁそうさ! だけれどもね! 生き続けることだって辛いんだ! どんなに画策しても僕らが死ぬ事が出来なかった! もはや最後の可能性に縋るしかないんだ!」

 死を望み続けた不老不死。

「何百年と生き続ける中で幾度となく人の死に触れてきた。人間は死ねる、何れ寿命がきて朽ち果てる。けれど僕らにはそれがない、何度心臓を貫かれようが、頭部を破壊されようが、何をされようが生きている、生きてしまう。だったら――もう最後の可能性にかけるしかない」

 行き詰った。息詰まった。生きているのが苦しい。

「だからこその手段だ、……他の手段があるのならとっくにそうしているよ」

 最後はかすれそうな程弱弱しい声で。それだけでどれだけ死を渇望しているのか痛々しい程に伝わってくる。

「――だから、全てを壊す」

 一片して表情が変わる。狂いに身を任せようと。その方が楽だから。

「全く持って――嫌になるほど理解出来るよね」

 水波は苦笑いしながら弓を構える。気持ちがわかってしまうからこそ、否、わかったところでそれは銀髪の気持ちと同じではない。銀髪が生きてきた年月を知らない以上気持ちがわかると、云う事は出来ない。想像することも出来ない。けれど理解出来ないわけではない、僅かでも理解出来てしまえば感情は変る。
 いともたやすく簡単に。

「だけど、だからこそ――納得は出来ない」
「水波瑞。それはそうだろう、むしろ私たちは理解してもらいたくはない、理解も納得も同情も何も要らない」

 銀髪の隣に銀の粉を散らしてその場に突如として虚は現れる。

「白冴虚か……余程」

 無残に弓が破壊される。水波が何かを云い切ろうとする前に。銀の粉が僅かに弓から散る。

「余計なおしゃべりは君の寿命を縮めるだけだよねぇ?」

 うふふと笑いながら虚の瞳は全く笑っていない。

「……そうだね。君たちの前で不要なお喋りは厳禁な用だ」
「惑わす事は出来ないとわかっていながら開くお喋りは、無駄でしかないからねぇ」
「だね」

 偽りの笑みを水波が向けると虚も偽りの笑みで返す。水波の手が淡い色を発光したと思えば次の瞬間手に新たな弓が握られる。


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