第一話:叫び リシアス、それは西の外れの崖一体を指す土地の名前。 本来は、崖があるため、滅多に人が訪れない場所だ。しかし、今は多数の罪人たちに占領されていた。 その場に、篝火、水波、榴華は足を運ぶ。 「朔夜!」 数日、会わなかっただけなのに、随分と長い間会っていなかったように感じる。篝火は朔夜の顔を見た瞬間叫ぶ。 「……」 言葉は届いたはずだが、朔夜は反応しない。何処か沈んだ面持ちを見せているだけ。 「千朱ちゃんに榴華……篝火」 水渚が代わりに言葉を発するが、罪人の喧騒にかき消されて篝火までは届かない。朔夜と水波の間に、栞が立っている。二人を気にかけ、二人を守る騎士のように。 「やぁ、水波久しぶり」 罪人達の中心にいる、罪人の牢獄支配者銀髪は、水波に対し気軽に声をかける。 「榴華も死んだと思ったらしぶとく生き残っていたとは」 やれやれと肩をすくめる。余計な慈悲などかけずに止めを刺せばよかったと、しかし後悔した様子はない。 「黙れ」 ドスの聞いた声が周囲を木霊する。誰の声かは明白だ。 「怒られちゃった。……朔。栞も水渚も自由に選んでいいんだからね」 最初は茶化すように、最後は真剣な表情で銀髪は三人に告げる。 自由に選んでいい。自分の命令を聞く必要は何処にもない。選んだのならそれを尊重すると。 「わかっているよ。それでも、それでも俺は選んだんだ」 自分に言い聞かせるように、朔夜はそれでもを繰り返す。朔夜は選んだ、銀髪についていくことを。それが何を意味するかを十分に理解しているうえで。影のある瞳で、しかししっかりと告げる。選んだと。 「僕もそうだよー」 千朱ちゃんとは本気の殺し合いになるかもね、と誤魔化すように水渚は笑う。 「……」 朔夜と水渚の視線に、栞は心が痛む思いになる。選べないのに選ぼうとして、自衛するために心を閉ざす。 一心不乱に頑張ろうとして、心が崩壊を招くのを栞は避けたかった。 だからこそ、最新の注意を払う。 いざとなれば――自分が殺す為に。苦しみ続けるのなら、自分の刃で終わらせてあげたいから――千朱の時と同じように。 殺戮に特化した自分の力を使えば苦しまずに殺す事が出来る。一瞬で、何もなかったかのように。 [*前] | [次#] TOP |