X 玖城家の屋敷を出てすぐの処で、出会ったばかりの謎の三人組に遭遇した。 「おや、お前らはあの時のじゃないか」 「あんときの!?」 千朱は驚き声を上げるが、雪城の方は冷静で淡々としていた。特に動じた様子もない。 「そこは玖城の屋敷だろう、玖城の屋敷になぞ用がない方がいいと老婆心ながら思うぞ」 「……あんたらこそ何故此処に」 此処は貴族の邸宅が数多く存在する場所。何故この場所にいるのか理解出来なかった。 「此処にいるのは簡単だろう。自宅があるからに決まっている」 「あぁ……そりゃそうか」 簡単な事を見落としていた、と半ば納得する。貴族の邸宅があるのなら、そして此処にいるのなら雪城達が貴族であっても何ら不思議はない。 自宅に帰宅するだけ――なのだから。 「そういうことだ。それに私は先ほど名乗ったつもりだが? ――雪城と」 「……まさか雪城家?」 千朱に思い当たる節はなかったが、篝火にはあった。篝火が僅かに顔を顰めながら問う。 「その雪城家だ」 「雪城家ってなんだ?」 千朱の質問。榴華の視線も篝火に向いている。榴華も雪城を知らないようだった。 篝火は一呼吸してから喋る。 「雪城家は雅契に連なる分家だ。分家の中でも最も力を持っている二家のうちの一つ」 「雅契の!?」 「あぁ……(カイヤと繋がりがあったのか)」 そこで篝火はもしかしたら、自分たちのことを予め知っていて近づいてきたのではないかと疑いが生まれる。 「ってことは海棠って人物も雅契分家か」 「あぁ、そういうことだ。因みに槐の方も分家さ」 「そうだったのか」 「だから、その分家としての忠告だよ。用事がないなら魔の巣窟に態々脚を運ぶ必要はない。自ら進んで寿命を縮める必要性は皆無だろう?」 腕を組み、優美な笑みを浮かべる。 「一つ、忠告をしよう」 そこで初めて海棠が口を開く。勿論雪城に対して忠告しようとしているわけではない。 「復讐が永遠に復讐しか生まず、断ち切る事が出来ないのならば、その復讐は並行ではない。連鎖するたびにその復讐心は膨大となっていく。歯車が崩れ落ち、正常に動作しなくなった結末がこれだ」 「……」 「歯車はかみ合わなくなり、復讐が膨大するたびに、歯車は欠け落ちて行く。もはや大局に置いて残った歯車は存在しない。お前らがどの道を選ぼうと、先にある結末はハッピーエンドではない」 「だろうな」 榴華が返事をする。 忠告されるまでもなかった。万が一、何処かで復讐の連鎖に気がつけたとしても榴華はそれを止める術を知らないし、諭すつもりもなかった。 「それだけだ、じゃあな。行こう雪城」 「あぁ……恐らく次に出会う機会があれば私たちは敵だろうな」 自分たちが雅契分家であり、雅契家当主に従うのであれば、何処までも平行線に。 出会ったことが奇跡のように、幻のように。 何処かでかみ合うことはないように。次に出会う時は刃を交える関係であるかのように。 自分たちの目的を叶える為に自分たちの敵を滅ぼす。一方的に、自分勝手に。 不都合を塗りつぶす。 [*前] | [次#] TOP |