W 「そりゃあ、そうだ。で他に何か用はあるのか?」 泉は用がある限り質問には答える。 「なぁ泉」 篝火が口を開く。尋ねるか、尋ねないか。道を選択したのならば責めるつもりはない。それでも知りたい事があった。 「朔夜は元気か?」 朔夜、の言葉の中に水渚や栞のことも篝火は含んでいた。 「朔夜は銀色サイドにいる。元気か、と言われてもそれは感情的問題だから何とも言えないが、存命な事は確かだ。栞や水渚と共に行動している」 「……そうか」 「……水渚」 思わず千朱の口から水渚の名前が零れる。大嫌いと言いながら何時も傍にいて、顔を合わせたら殺し合った大嫌いな相手。胸が痛む。その痛みに気がつかない振りをする。 「朔夜にとって銀色は育ての親。目的を知っていたとしても敵対することは出来ないだろうし、それに元々目的を銀色から知らされていた」 「――!?」 「最初から理解した上で、朔夜は銀色と行動を共にすることを選択した。お前だって朔夜が自分で選択したのなら、何かを云うつもりはないのだろう?」 表面上は敵対することになっても、篝火にとって朔夜は仲間。 「水渚も知っていたのか?」 千朱が初めて泉に問う。泉は頷いてから口を開いた。 「水渚も栞もだ。けれど千朱、それをお前に知らせなかったのは、お前を仲間外れにしようとしたからだぞ」 「……そういうこと」 仲間外れにしようとした、そこに悪意はない。千朱への思いの裏返しだ。 「あぁ、そういうことだ。お前がどちらを選択するか選ばせる為に何も知らせなかった」 「そして俺は選択しなかった」 「水渚と栞は、自分たちに出会うことでお前の意思が揺らがないように、あえて姿を見せる事はしなかった。最も、お前に限らず二人も自分の意思が揺らがないようにするための措置でもあったわけだが」 出会ってしまえば、決意が揺らぐかもしれない。昔から計画されていた事に対して、賛同したかは不明だが、それでも付き従う事を選んだ意思が崩れ落ちる事を避けたかった。 思いを守るために思いを裏切って。それに気が付いていなくても、気がついていても、どちらにしろ心が痛む事を理解しながら。進んでしまった時は戻せない。 「それだけ知れば充分だ」 それ以上を求めない。求めすぎれば、自分が立っている場所を見失いそうで恐ろしかった。 知りすぎた情報は刃となり自身を切り裂くだろう。 「そうか、いい引き際だな」 泉は目を瞑る。瞳に宿る熱を分散するように。 「他に用がある奴は? 特になければ怱々に帰る事を進める」 「あぁ、充分だ」 目ぼしい情報は一通り聞けた。それも予想外に。 篝火は泉の顔をその目に焼き付けるかのように見た後、部屋を後にする。それに千朱も続く。最後に榴華は背を向けたまま、手を振りその場を立ち去った。 「珍しいよねーほんと」 カイヤはけらけらと静かになった部屋をすぐに音で満たす。 [*前] | [次#] TOP |