V 「それに榴華。夢現に手を出すのは最良ではないな」 「何故?」 梓や雛罌粟など実力者が揃っているからか、と榴華の頭の中に浮かんだが、泉はそれを否定するように意地悪く笑った。 「夢現を営業している人形師虚がいるからだ」 「人形師虚? 誰だそれは」 「不老不死」 「銀髪の他にもいたのか」 「正確には銀色と虚が唯一の不老不死だ」 「確かに不老不死は厄介だな」 榴華自身一度挑んで勝つことが出来なかった。雛罌粟が現れなければ自分は死んでいた。 だが、そうではないと泉は首を軽く振る。 「虚は確かに不老不死で厄介だが問題はそこだけじゃない。銀色は如何に不老不死だろうと戦闘能力に関してはそこまで高くはない。榴華、お前だって知っているだろう? だが虚はそうじゃない。戦闘能力に関して異様に高い。榴華お前だって一人じゃ例え虚が不老不死じゃなくとも勝ち目はない」 衝撃の事実が榴華を襲う。 榴華は自意識過剰ではない。ただ、実力に裏付けられた自信から、戦闘において右に出る者は怱々いないと思っていた。しかし泉は榴華では勝てないと、例え相手が不老不死じゃなくとも。 「だからこそまだ夢現にいくのは時期尚早だろう。それ以前に銀色から動作を起こした時に妨害するならば妨害する方が効率的だ。まだ銀色はポーンを動かしたに過ぎない」 「……」 「是から駒の流れが変わる。女王や騎士が動き出し、事を荒げていくだろう。相手のポーン達を壊してな。お前らが水波につくのかどちらにつくのか、お前らの感情まで俺は図ることは出来ないが、一つ」 「何だ?」 泉の情報は的確すぎて、今の榴華にとっては不気味だった。 「俺たちの邪魔はするな」 邪魔すれば敵だと如実に伝えている。黒い何かが蠢く錯覚に陥る。嘗て泉が罪人の牢獄にやってきて、榴華と一戦を交えた時と同様の何か。 「……さぁな」 邪魔をしないとは断言できない。榴華にとっても邪魔をされるなら敵でしかない。 嘗て同じ罪人の牢獄に置き、交流ある人だったとしても。自分の目的を達成するために、誰しもが、誰しもを犠牲にする。 屍の上にたち、目的を達成しようと歩む。血の海と知りながら。 歩みを止める事は出来なかった。目的を失う事は出来ない。 「だろうな」 「あぁ、そういうことだ。何時何処で何があるかわからないのに、邪魔をしないと約束出来る方が、おかしいだろうが」 榴華はニヤリと笑う。乾いた笑い。心から笑えたのは柚霧と一緒のときだけ――その柚霧がいない今、心から笑えるはずがなかった。 [*前] | [次#] TOP |