零の旋律 | ナノ

V


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「雪城、何で声をかけたんだ?」

 道中、海棠が疑問を投げかける。淡い金髪に黄緑色の瞳は垂れ目で何処か大人しい印象を与える。左目の下には泣き黒子。青紫色のコートをきている。腰にはサーベル。

「前にカイヤが云っていた外見に似ていたからね、あのバンダナの方がね」
「……あぁ、夢華の」
「そういうことさ、だからちょっと興味が湧いてね」
「成程」
「そういうことは前もっていってほしいんだけど……」

 軽く睨みながら、もう一人の人物槐が抗議する。艶やかな黒髪は襟足だけ少し長い。赤い瞳が真っ直ぐ雪城を捕える。
 全体的に黒と赤を基準とした服装、赤いフリルが所々に使われている。袖は長く、手をすっぽりと隠していた。腰にはホルスターと拳銃を装着している。

「悪い悪い」

 悪びれた様子もなく雪城は謝る。

「悪いと思ってないし」

 槐とて本当に謝って欲しいとは思っていないため、苦笑する。

「それにしても、あの赤毛の青年は中々に強そうだったな」

 雪城は自分たちの後ろからやってきた人物を思いだす。鋭く鋭利な瞳はそれだけで強さを物語っていた。

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 夜、月明かりが牢獄の外だと実感する。人気のない場所から見える星空は眩しく幻想的だった。
 篝火と、千朱、榴華は野宿の準備をしていた。誰も魔術には精通していないため、火を魔術でつけることは叶わず、ライターを使って薪をする。

「こう考えると野宿って面倒だよな」

 何度目かの野宿。時折街の宿に泊まることもあったが、基本的に金銭を余り所持していなかったため、宿代に使いたくはなかった。そうでなくとも食費である程度飛ぶ。

「ってか何で、三人もいて誰も魔術つかえねぇんだよ」

 千朱が軽く悪態をつく。榴華の紫電は魔術の部類に入るが、朔夜の雷同様榴華は紫電以外の魔術を一切扱えなかった。紫電で火をつけることも不可能ではないため、一度試したがその時の結果以降、紫電で火を起こそうという考えは誰も口にしなかった。
 篝火の特技を利用すれば――生活が不便になることもなかっただろうが、此処でそれをする気には到底なれない。

「同感。でも、朔夜とかがいたとしても変らなかったけどな」

 朔夜は今どうしているだろうか、篝火は口にした事を後悔する。朔夜や水渚たちも他の罪人と同じ行動をしているのだろうか。そうは思いたくなかった。

「はは、確かに」

 千朱も同意する、何処かその笑いは乾いている。極力考えないようにしているのだろう、考えてしまえば揺らぐから。

「なぁ、そういやお前って水渚の事好きなのか?」

 野暮だ、と思いつつ口をついて出てくる。

「……嫌いさ、大嫌いでいいんだ」
「そうか」
「あぁ、それでいいんだよ」

 それ以外の感情を抱かないように、それ以上の思いを抱かないように。
 大嫌いの関係で良かった。
 それだけで満たされていたから。
 水渚と対立した時、告げた大嫌いの意味ではない大嫌い。
 大嫌いとい言葉を利用した矛盾。
 ――そう、俺たちは大嫌いでいい。


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