零の旋律 | ナノ

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「まぁ恋愛する心を持っていない時点で意味ないかもだけどー」

 けらけらと何がおかしいのかカイヤは笑う。純粋無垢に笑う。
 偽りが素へ変貌した結果もたらされた笑み。
 純粋でありながらその笑みは何処までも歪んで狂っている。

「それにしても泉は何だか今日は違うねー」
「……何がだ?」
「とぼけちゃってー普段の泉とはちょっと表情が違うよ」

 人間観察が得意だったか? と泉は疑問に思いながら、カイヤに気がつかれた事に自嘲する。

「あの、男が今さら姿を現したんだよ」
「あの男?」
「……泉夜だ」
「あぁ、成程。姿をくらましていたのに今さら出てきた事が許せないんだね」

 泉の情報網の網に捕まらないように泳いでいたはずなのに、今さら泉の情報網内に現れたことへの苛立ち。

「そういうことだ」
「態と、だね」
「あぁ、態とだろ。今まで何年と全く音沙汰がなかったくせに、今さらひっかかるなんてあり得ないからな」

 態と、隠れるのをやめ泉に気がつかせた事に他ならない。

「しかもだ」
「何何」
「俺が情報を掴んだ場所が罪人の牢獄だ」
「……つまり、罪人の牢獄に何かの意図があって脚を運んだということだね」

 罪を犯したから、とカイヤはとらなかった。そんなヘマをするわけがないから最初から除外しているのだ。

「あぁ。何が目的かまでは知らないがな」
「案外泉の足取りを追っていたりしてー」

 けらけらと笑う。その言葉が何処か的を射ているようで泉はいい気がしなかった。
 ――今さら何故現れる。

「冗談でも止めろ」
「冗談じゃないから止めない」
「……」
「泉が黙ると面白くないねー」
「別に俺は饒舌じゃないんだが?」
「知っているけど」

 こいつは――と泉は思いながら今に始まったことではないので諦める。
 泉は自分の性格が悪いと自覚しているが、カイヤや律と一緒にいるとまだまともな感性を持っていたのかと再認識させられる事が多かった。

+++
 罪人が刃を振るう。逃げまどう人。目の前に迫る刃――刃は後方に飛び、壁に突き刺さる。
 続けざま罪人は腹部に重みを感じると同時に地面に頭を押し付けられる。痛みで声を上げる前に気絶させられる。街の人は助かった、と地面にへたり込む。

「おい、平気か?」
「あ、ありがとうございます」

 震える声で、しっかりとお礼を言う。助かった命。差し伸べられた手を掴み、立ちあがる。服についた土を掃う。

「さっさと逃げろ」

 まだ罪人は残っている。鋭き刃を見せつける。

「はいっ」

 危うい足取りで懸命に逃げる。罪人は追おうとするが、目の前に立ちはだかった人物に邪魔される。

「あぁ? なんで邪魔しやがんだっ……って、てめぇ篝火か?」
「――あぁ」

 罪人と退治する罪人。
 刃を向けて襲って来るのを罪人――篝火は軽やかな動きで交わし、拳を叩きこむ。
 辺境の地で街の人を襲っている罪人たちを一層するのは容易いことだった。
 篝火だけではない、近くで千朱も同様の事をしている。


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