V 「そんなにそっくりなのか?」 「瞳は紫紺色だったけれど、それ以外は、纏う色も同色だし、性質も悪い――まぁ、泉とは違う毛色を感じたが、そして何より名前が泉夜っていうんだって」 「うわぁ……怖っ」 朔夜は素直な感想を漏らす。似ていることが怖い。 同一ではないが、同一だと錯覚してしまいそうなそれが。 「街を案内して、と頼まれたが関わりたくないから置いてきた」 「罪人か?」 「罪人だ」 罪人の牢獄で罪人以外に誰がいる――そう返答したいところだったが、そう断言出来る程、閉鎖された空間ではなくなりつつある。 遊月たちが侵入してきたのもまた然り。正確には遊月は罪人であったから例外ともいえるのかもしれないが。 そして白き断罪。彼彼女らは罪人では内にも関わらずこの牢獄にやってきた。一部の人間はそのまま罪人の牢獄から姿を消した。それは死んだ、ということではない。国に戻ったということ。 罪人の牢獄の境界線が曖昧となって来ている証拠だった。 「多分」 最後に篝火は付け足す。もはや罪人の牢獄にいる、イコール罪人であるという方程式は簡単には成り立たない。否、ほぼ百%の確率で罪人であることには変わりない。しかし、その僅かな確率が存在する以上例外の可能性は否めない。 「……会ってみたいような会いたくないような」 「会うな。関わり合うな。それが一番だ」 「そっか」 朔夜はそれ以上何も云わない。篝火のパンを目の前にして元気じゃない、疲れた表情を見たからだ。 関わってはいけないのなら、これ以上関わり合う必要は何処にもない。 次の日の朝、脳内で自然と泉夜のことを思い出し、朝食を作る気分になれなかった篝火は簡単なサラダとパンを用意するだけで済ませた。 「んーあ、俺少し出かけてくるわ」 「珍しいな? 引きこもりのお前が出かけるなんて」 「面倒なことこの上ないんだけど、栞に呼び出されたんだわ」 「へぇ、気をつけろよ」 「あぁ。って俺が気をつける必要はないだろう?」 はにかみながら、朔夜は朝食を食べ終える。 その後出掛ける支度を、といっても大半は篝火が準備して、出かけた。 篝火は朝食の後片付けをして、一段落ついた頃合いにドアが開く音がした。 この足音は榴華だと、足音で誰だか判断する。 「何だ?」 椅子に座ってお茶を飲みながら榴華の方を向く。 今日は柚霧と一緒ではない。第一の街支配者榴華が、朔夜の自宅に自ら赴く時は大抵何かしらの用事があってのことだ。 「今さぁ、変な噂が流れているんよ。というか昨日の夜に出現してあっという間に広がったんよ」 「噂?」 予想がつかないわけではない。 [*前] | [次#] TOP |