零の旋律 | ナノ

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「やはり、あやつが最善の状況とは言い難い状態で行ったのは、我が原因か」
「それ以外に何があるのだい? まぁ、今の状況が決して悪いわけではないよ。役者も最高といって遜色はない。けれど――後数年は、問題なかったはずだ」

 数百年の時をかけた復讐劇。しかし、それは復讐を始める上で最良の時ではなかった。それでも、銀髪は復讐の物語を進めた。

「君に見せたかったのさ」

 虚はお茶を優雅に口にしながら語る。その姿は何処か浮世離れしているように映る。

「唯一人、虚偽の友達でいてくれた君に、虚偽の物語を見せたかったのさ。いくら術で年齢を誤魔化そうとしても――君は後何年生きられるかわからない。ひょっとしたら後十年とか持つのかもしれないけれど、でも後数カ月の灯とも限らない。だから、虚偽があの身体になってから最初で最後――最期まで友としていてくれた君に見せてあげたいのだろうよ」

 全くもって甘いという虚の表情に苛立ちは見えない。とても――穏やかだ。

「君は、不老不死である虚偽を拒絶することがなかった。その力を見ても今まで通りに接した。あろうことか姿が変わらないのなんて大差ないよと笑って、術で姿を変えるようにした。君は自ら望んで罪人の牢獄にやってきた。巫女よ」

 雛罌粟は正確には罪人ではない。自らの意思で銀髪とともに罪人の牢獄へ足を踏み入れた。

「私はねぇ。君の事は好きではないが、感謝はしているよ。壊れかけの心を救ってくれたのは紛れもないほかならぬ君だからね。家族だから出来なかった事を、君はやってくれた」

 初めて出会った時、穏やかな表情で、全てを絶望したような雰囲気で、目の前に現れた銀髪の青年――虚偽。今でも目に焼き付いている。内側の世界が壊れた時、自分の命を助けてくれた存在でもあった。

「でも、私の心境では君を殺しておけばよかったと思っているよ」
「そうじゃろうな」
「雛罌粟に出会うことがなければ、あれは――あれの物語を確実に成功へ導いた。最も、私がいる以上、どんな時であろうとも成功へ導くけれどねぇ」
「全く持って、お主は弟思いじゃの」
「君もだろう?」
「我は、我のやりたいようにやるだけじゃ」

 誤魔化す為に、伝えたい言葉を濁し、別の言葉で埋める。けれど、誤魔化したところで虚には、正確に意味が伝わる。

「全く持って君は厄介だよ、感謝もしているが、私は君を殺したいと思っているのだから。私にとってあれは唯一の家族だ。全てを奪われた時、傍らにいた可愛い可愛い弟さ」

 人々が恐れたから、人々が欲したから、人々が拒絶したから、人々が望んだから、人々が荒らしたから
 人々の都合で、不老不死へと変貌させられた時、全てを絶望し憎んだ時たった一人傍らにいて微笑んでくれる弟がいた。憎んで憎んで、全てに絶望して死を求めても死ねなくて――痛みだけは感じて苦痛だけの日々。

「だから、私たちは復讐するんだよ、そして私たちの切望を叶える」


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