零の旋律 | ナノ

第五話:相反する思い


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「辛いなら、やめちゃえばいいのに、本当に……束縛するのは想いか想い出か」

 久しく見ることのなかった――場合によっては一生もう見ることが叶わないはずだった夜空を眺め、風に身をゆだねる。長い髪は何故の流れに抵抗することなく靡く。闇に覆われた世界で、夜空に輝く星を愛おしい瞳で見渡す。

「苦しんだよ、君たちが苦しんでいると」

 猩々緋の瞳は揺らぐ。誰もいない静かな場所で、栞の独り言だけが音となる。
 理解出来てしまうからこそ、長年一緒にいたからこそ、わかる想いがあり、だからこそなにも出来ない自分が無力に感じてしまう。
 あの時も今も、自分は何もしてやることが出来ていないと。結局、内側にいながら外側なのだと実感してしまう。例えそうは思われることはなくとも、自分がそう思ってしまう。

「あぁ、本当に。水渚も朔夜も」

 ――そして俺も
 ――苦しいのなら、止めてしまえばいいのに
 吹き付ける風が冷たい。心が冷えるようだ。
 ――何もかもから目を逸らせたらいいのに。
 そうしたら、何も傷つかずに済むのに。

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 混乱と混沌にみち、混濁をまき散らす。
 誰もが、誰もかれもが復讐者となり目的を果たす為に周囲を渦中へ巻き込む。否応がなく。
 そうして――被害は確実に拡大していくばかり。
 終末へ向け加速するばかり。
 全ては物語の元に。


 雛罌粟は銀髪の元を訪ねに、誰もが望んで近づかない雰囲気を街中で放っている異色の人形屋“夢現”を訪れる。

「あやつはおるか?」

 扉を開けた所で待っていたのは、優雅にティータイムを楽しむ虚だった。一目見た限りでは銀髪の姿はない。

「いいや、今はいないよ。残念ながら恐らく――役者たちにでもあっているんじゃないかねぇ」
「そうか、すまない邪魔をしたな」

 夢現を拠点にしているのは、一部の人間だけだ。例をあげるなら、朔夜や栞、水渚等昔から銀髪と一緒にいる者、梓や蘭舞、凛舞、雛罌粟など、支配者もしくはそれに近い立場にいた者たち。
 夢現を拠点にしていることが、露見するのは構わなかったが、それでも誰かしこにも拠点を教えることはしない。

「君を邪険に扱うわけがないじゃない――私の大切な弟は私とは違い狂ってはいるけれど、狂い切れていない……」

 雛罌粟は虚が云いたい事がよくわかった。これでも付き合いは長い。最初に向けられた殺意を今でも鮮明に記憶している。

「我が邪魔か?」
「計画の誤算になるのなら殺してしまいたいと思うところだけれど、それをするのは止めておくよ」

 虚は何処か歪な笑みを浮かべる。


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