零の旋律 | ナノ

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「僕は政府を滅ぼしたい、僕たちを使い捨ての駒にした彼らが許せない」
「言うは易く行うは難しだぞ」

 篝火がやっとの思いでを開く。

「わかっているよ。だからこそ実行するためには孤軍奮闘では勝ち目がないんだ。利害
関係を結ぶだけでも構わない」
「怒りは敵と思え。天才軍師が感情に任せて何かをする時こそ何もないとは思えないが」
「随分と君の精神状態はよくないみたいだね」
「何故」

 本当はわかっている。嫌というほど篝火は理解している。それでも心の底では否定していたかった。

「君がそんな言葉を使うときは決まって、状態が良くない時、らしいからね」

 長く一緒にいたわけではない。榴華や雛罌粟と比べて水波は篝火たちとそんなに関わる事がなかった。
 だからこそ、断定までは出来ないが、今の状態を見ればそうだと一目瞭然だった。

「……流言飛語だ」
「自分でわかっていて、態とやるのも中々。因みに僕の勢力がぶっちゃけると人数の面でも力の面で最弱だ」

 だからこそ君たちの力が必要なんだ、と水波は告げる。利用できるものは何を利用したって構わない。

「榴華、どうだろうか?」

 嘗ての、膝まであった長い赤毛の面影はなく、現在は肩までに揃えられていた。榴華の歩みと共に赤毛は揺れる。水波と真正面から向き合う。確固たる意志に満ちた瞳。

「俺は――」
「結論は急がない、また聞こうか。篝火君、一つだけ」

 榴華の言葉を遮る。例え確固たる意志が瞳宿っていようと、それは榴華の目的を果た為の強い意志であり、水波の味方になるかの結論は出来ていないことを見抜いたからだ。
 結論を焦らされば、後々に影響を及ぼす可能性があるなら、急ぐ必要はない。決意が固まってから味方になればいい。
 水波は篝火の方を向く。榴華よりも迷った瞳を見せる篝火、その想いが理解できないわけではなかった。しかし告げることは告げる。

「どれかは滅びるよ。世界か、国か、政府か、守りたいなんて思っちゃいけない。そういう次元の話ではないからね」

 それが、残酷な言葉だったとしても。踵を返し、悧智と砌を通り過ぎると、悧智と砌も水波の後ろへ続く。
 静かになったところで篝火は地面に腰を下ろす。

「おい、大丈夫か?」
「ああ、別に問題はないんだが、生きの馬の目を抜くとはあいつのことをいうんだな」
「一ついいか、お前のさっきから使う言葉の意味、俺半分も理解していないからな」

 千朱の言葉に、普段の篝火なら意味を説明していたが、生憎現状ではそんな気分にはなれない。
 思考が追いつかない、理解が追いつけない。めまぐるしく蠢く中で色々な者が変貌していく。永遠に同じものはないと知りながらも、今ある現状に目を背けたくなる。禍根に関われば今の事実以上のことが沢山、待っているのに。眼を背けたくなるような光景も、目も背けたくなるような事実も。
 今回のは、表面にしか過ぎないというのに――と。

「狂ったのは何処からか、俺もお前も……榴華も」

 誰も狂っていないとは言わない。誰もが狂って、歪んで歪んで、そして耐え切れなくなって。


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