U 「俺にはよくわからないな」 「林檎をみたことがない人が、蜜柑を見せられ是が林檎だよといったら信じるのと一緒ってこと」 「ふーん。ところで、話の腰を折るようで悪いが、白冴とは?」 水波瑞の会話に、自然と出てきていた知らない単語、恐らくは人の名前であり、誰のことを指しているか推測はできた。けれど、推測の域を超えることはない。 「白冴は、罪人の牢獄支配者の名字だよ。貴族白銀は、その血筋が流れているんだ」 端的に、そしてこれ以上ないくらい纏めて水波は口にする。 「そういうことか」 「さて、そろそろ行こうか」 「何処にだよ」 「着いてくればわかるよ、きっとそろそろだろうから」 曖昧な理解出来ない言葉に悧智は眉間に皺をよせながらも水波の言葉に従う。軍師の言葉に異議を唱える必要はない。例え疑問を口にしようとも。 +++ 銀髪たちが罪人の牢獄を出てから、数日の間を置いて榴華、篝火、千朱の三人も罪人の牢獄から脱出した。 数年ぶりに見る外の景色。眩しい太陽に思わず目を細める。 「……誰かいる」 榴華が静かな声で告げる。完全回復には程遠い榴華だったが、雛罌粟の適切な治療のお蔭で辛うじて日常生活は送れる。 雛罌粟に仮に礼を言ったところで、雛罌粟はお主の身体が丈夫だからだ、といって返すのがオチだろうが。 榴華の言葉に身構えた篝火と千朱だったが、その誰かが姿を現した所で篝火の表情が変わる。 「水波!?」 「水波!?」 榴華と篝火の言葉が同時に紡がれる。その場に現れたのは水波だけじゃない。 「悧智と砌!?」 足音とともに、水波の背後に二人の人物。片や白き衣に身を包み、片や黒い服に身を包む。 「どういった組み合わせだ?」 「久しぶりだね、随分榴華は様変わりしたようだけど」 榴華の髪型を指して水波は言う。 「……」 「まぁ想像がつかないわけではないけど、詮索は野暮だね」 「なんでお前が生きている? それに何故白き断罪と手を組んでいる」 疑問、疑惑の眼差しを向ける榴華に、水波は苦笑いしながら簡潔に説明する。 「罪人の牢獄にいた、僕は僕であっても実物じゃない。あの時の僕は術を媒介として作り上げられた偽物。それが紅於の手によって壊され、僕は本来の僕へ戻ってきた。悧智と砌と一緒にいるのは、簡単だ。手を組んだからだよ」 「罪人の牢獄を滅ぼそうとした二人と何故!」 篝火が声を荒げる。白き断罪が罪人の牢獄を滅ぼそうとした事件のことを千朱は知らない。知らない以上口を出すべきではないと判断し、口を紡ぐ。 篝火はあの時の記憶が鮮明に蘇る――悧智が夢華を殺そうとした瞬間が。思わず殴りかかりそうになるのを理性が必死に抑える。 [*前] | [次#] TOP |