零の旋律 | ナノ

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「けど、私たちだって何時までも辺境の地で罪人退治している場合ではなくて?」

 砌の意見に水波は頷く。各地の罪人を退治している間にも、他の確固たる目的を持った人が動き出す。
 ましてや辺境の地にいる罪人達はいうなれば下っ端同然。大した力は備えていない――もっとも他の罪人と比べた場合だ。戦闘訓練を積んでいない一般人からとってみれば脅威にしかならない。

「もうしばらくしたら貴族勢も動くだろうからね」
「全く、何も同時に一斉にやらなくてもいいものを」
「一斉にやるからこそ、勝率が上がるってものさ」

 誰もいない時に一人でやるのならば敵が増える。けれど現状の用に三つ巴にでもなれば、戦力は自然と分散しなければならない。

「政府はどうでるかしら? 一番手駒が少ないのは何と言っても政府側なのでしょう?」
「本来政府と貴族の結びつきがあるんだけど、今回の場合、貴族――大貴族側は大貴族側で勝手に動き出しているからね。その動きを政府が読めない程馬鹿じゃないだろうし、ごく少数の貴族としか結託はしていないはずだよ」
「最大勢力の面でいうなら貴族勢かしら?」
「微妙なラインだけど、罪人勢かな? 貴族勢の当主勢の力は強いけれど、人数面でいうなら大半が雅契分家で数を数えているっていっても過言じゃないしね。それに罪人勢の所には白銀がつく」
「白銀はそういったものだったかしら?」

 表立って数えられる事のない、認識されることのない貴族白銀家。暗殺者。

「うん。白銀の元々を辿ればその血筋は白冴にあるからね、白銀が白冴に協力しないわけがない」

 だからこそ混沌とする。

「まぁでも微妙なライン」
「何故だ?」

 悧智が疑問を口にする。

「白銀家当主は翆鳳院家当主のことを誰よりも想っているからね。翆鳳院家の立ち位置よってはどちらに転がるかはわからない、曖昧な線ってこと」
「家柄か、想い人か」
「なんかそう聞くと、使命か恋かって聞こえるわね」

 砌がくすりと笑う。

「違うのか?」

 悧智は首を軽く傾げながら砌を見る。砌の女性的な面に男性は自然と惹かれてもおかしくない魅力を備えていた。だからこそ、女性としてそう言った面に詳しいのか、と思って砌を見る悧智だったが、砌は肩をすくめる。

「僕が答えるよ。白銀家当主に恋とかそういった概念はないから、そもそも恋愛に発展することも恋することもないんだよ。愛することはあっても恋することはない」
「複雑だな、ってか概念がないって?」
「まぁ単純にいえば恋とは博愛主義のことだよ、といえばそれを白銀家当主は信じてしまうってこと」
「……」
「概念も意味も理由も知らないからこそ、認識もない。恋が何なのか全く知らない無知ってこと」

 水波は嘗て会った事がある白銀家当主の姿を思い出す。足首まである長い銀色の髪、そして蒼い瞳を持つその風貌は何処か罪人の牢獄支配者をにおわす。それは元が白冴だから、だろうか。


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