零の旋律 | ナノ

第四話:白冴の反乱


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 数日後エカルラートは大混乱に陥っていた。各地で突如として現れた凶悪な罪人達が次から次へと罪を犯していく。
 何が起こったか人々は理解する前に殺されていく。何が起きたか――政府はすぐにある人物の顔が思い浮かぶ。

「……白冴が反逆だと」

 政府の面々はすぐに対策を練る。このまま放置するわけにはいかない。白冴の目的が何かを明確に理解している以上。明確に理解していながら、強硬手段には出ないと高を括っていた。いかに不老不死といえど、多勢に無勢と判断して。しかし、彼らの予想に反して、白冴は強硬手段に出た。自らが死ぬために、その理由を彼らは知らないし、また知ろうともしない。

「どうする、白冴の目的は復讐だ」
「今さら復讐だとは、愚か過ぎる」
「ばかげている、罪人どもと白冴の血統だけでどうにか出来るわけでもあるまいに」
「ならば我らの戦力で白冴を捕えるだけだ」
「いかに不老不死と言えど、所詮人でしかない」
「捕えてしまえば此方のものだ」

 政管たちは対策を会議する。

「白冴が何かを仕出かそうと、この国をどうにかすることなど出来ぬ」

 それは絶対的な力の確信。

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 水波瑞は中央から離れた街に現れた罪人を退治していた。
 弓を操り、罪人の牢獄にいた時以上の実力を披露する。元々戦闘要員ではない、といっても軍師として数々の困難や危機を体験してきた実績は存在する。その傍らでは悧智と砌が罪人を軽くあしらっている。
 一通り罪人がいなくなったのを確認すると手を休める。家の中に逃げ込んでいた人々は静かになったのを確認してから外に出てくる。

「……全く、場所関係なしに襲うことはないだろうに」

 予想の範疇でありながら水波はため息をついてしまう。無くなった矢を補充する。

「滅ぼすんなら、そりゃあ当然だろう」

 さも当然のように悧智は言う。悧智と砌は汗一つかいていない。二人の場馴れが如実に表れている。水波は汗を布で拭う。

「そうね、だからこそこんな回りくどい方法を使って危機感を煽っているのでしょうし」
「復讐が目的なら当然だろうな」
「否定は出来ないわね」

 彼らの会話はいたって冷静だ。

「……けど、本来ならこんな回りくどい事をしなくてもいいくらいの力はあるはず――ましては辺境の地にまで足を運ばせる必要は皆無だよ」
「なら目的は何だよ」
「悧智と砌の言った通りだけどね」
「おい」
「罪人の牢獄支配者、通称銀髪の目的の一つは復讐。誰が死のうが構わないんだよ。それが例え自分の駒だとしても。憎むべきものは自分たちを人であり人ならざる者へ変貌させてしまった人」
「全て、とはいかないまでも当時大半の人がそれを望んだんだろうな」
「うん」

 望んだのは一部の人間だけではない。大勢の人が嘗ての大地を、罪人を見張る番人が欲しかった。自らの安全を確保するために。
 だからこそ、憎しみは募るばかり。二人の贄により安全を生みだした人を。
 二人の贄により崩壊を免れた事を――人々は忘れている。


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