U 罪人達が螺旋階段を上り終えた後、残っていたのは朔夜と水渚、栞だ。 生まれ故郷を名残惜しそうに朔夜と水渚は眺める。栞の故郷は別だ、しかし――故郷での風景は殆ど覚えていない。この牢獄に来るまで、ほとんど外に出たことがなかったから。だから、栞にとっても此処は故郷同然。 千朱と篝火は結局姿を現さなかった。わかっていたことだが、それでも朔夜と水渚は悲痛な顔を一瞬だけ見せる。 選ぶのは彼ら、残るも進むも自由。 「……行こうか」 お別れのとき。栞が最初に罪人の牢獄に背を向ける。見納め。もう二度とこの大地に戻ってくることはない。 思い返せば、様々な想い出が蘇る。郷愁に浸る。 罪人の牢獄は自分が育った場所であり、朔夜や水渚――千朱と出会えた場所。 銀髪が手をさし伸ばしてくれた時、牢獄に来る道を選ばなければ、恐らくは野たれ死んでいた。 「さようなら」 栞は目を閉じる。 栞の足音に反応して、朔夜と水渚も続く。叶うことなら、味方のうちに一目会いたかった。 叶わないのなら、仕方ない。敵対するならば、心が揺れ動く前に別れてしまえばいい。出会わなければ心が動かされることはない。 銀髪に強要されたわけではない、銀髪とともに行くことを、自らの意思で選んだ。 決意を揺るがさないために罪人の牢獄に背を向ける。 「行こう、水渚」 「そうだね、朔」 朔夜と水渚は手をつなぎ、故郷を後にする。 ――さようなら、俺たちの故郷 ――さようなら、僕たちの場所 +++ 篝火と千朱は最果ての街への道中、榴華と再会した。 傷だらけで今にも倒れそうな身体を半ば引きづりながら、榴華は姿を現す。 「榴華!?」 「なんでお前傷だらけなんだ!?」 腹部を右手で押さえ、悲痛な顔をした榴華に足を止めざるをえない。何があったか想像がつかない。 榴華を怪我させる事が出来る者などこの罪人の牢獄にはそうそう存在しない。だからこその第一の街支配者。 「……篝火、千朱。お前らはあいつについていくつもりか?」 「何のことだ?」 何時になく真剣な榴華に、篝火は慎重に返答する。 「銀髪の事だ、罪人の牢獄支配者についていくつもりか」 「待て、話が見えない。俺たちは第一の街の罪人達がいなくなっていたから、最果ての街へ向かう途中だ」 「……銀髪は、あいつはこの牢獄から罪人を国へ出すつもりだ」 「――!?」 「なんだと!?」 篝火と千朱は顔を見合わせる。 「お前たちは外で出るつもりか?」 「……銀髪の目的は」 「世界を滅ぼすこと」 「……榴華お前は知っていたのか?」 「いいや、雛から聞いた話だ。雛が嘘をつくとは思えない、信憑性は高い」 「何故」 合点がいかない。銀髪がそうすることに何の意味がある。 [*前] | [次#] TOP |