T +++ 雨が降りしきる空を眺めながら、時を待つ。 室内からベランダに繋がる窓に手をかけ、外に出る。屋根のお蔭で雨には濡れない。 薄暗い空に覆われ星空を見ることは叶わない。最も時間帯的にいってもまだ星を見るには早い。 しかし、薄暗い空は、ある場所を想起させた。 「……後、どれくらいだ」 誰に問うたわけではない、完全なる独り言。その証拠に青年の周りには誰もいない。 明朗な時間は青年にもわからない。 漆黒を纏い、幾つもの情報をこの手で握っていても――最善を尽くされた機密の細部まで知ることは叶わなかった。最も精密な時間を知っていた所で、やるべきことは変わらないし計画には何一つ支障がない。 「……」 青年は黙って空を眺め続ける。雨音に耳を澄ませながら、時間が流れるのをひたすら待つ。 ――大切な人を奪ったこの場所に居続ける意味はない。 心の中で呟く言葉が、青年の決意を確固たるものへ変貌させていく。 元々大切な人のためにしか動かなかった。だからこそ躊躇や迷いは存在しない。 +++ 許されざるものも、許されたいものも、許さずものも。 全てを一つに纏めて、凝固――させる。 滅びの時を迎えるのなら――それは人が自らの手で招いたものならば――清算する時が訪れたのか 失われた死を求めて永遠を生き続け、最後の可能性に縋りつく。 「……数百年の安泰なる時に、過去を忘れた人々に復讐をしに」 銀髪は螺旋階段前で、一歩一歩踏みしめ歩く。何処か名残惜しそうに、そして絶望と希望を抱きながら。 最後の可能性が、成功するか失敗するか見当もつかない。期待を胸に抱き、恐怖に蝕まれる。 けど、それを表面上に出すことはない。 「さて、罪人の牢獄から出ようか」 後ろに控える罪人達を振り返り、告げる。支配者がいなくなった牢獄はいずれ滅びる。 街の結界は効力を無くし、砂の毒に蝕まれる。そうして、人の住めない土地と――元に戻る。 ――是でいい、これしかない。 躊躇も迷いもいらない。ただ、全身するだけ。吹き付ける風は砂を含んでいて、少し痛い。 痛みなど、ほとんど感じないはずなのに、風が痛かった。 罪人達は銀髪に続いて螺旋階段を上る。全ての罪人が銀髪の元へ集まったわけではないが、それでも大半は此処にいる。 [*前] | [次#] TOP |