第三話:罪人の牢獄 舞いあがれ、今過去への罪を。 最果ての街、他の建物とは比べ物にならない広さを誇る銀髪と梓の自宅内に朔夜はいた。 「……」 朔夜だけではない。水渚も栞もいる。 「朔、心配?」 「……あぁ」 「選ぶのは彼だから強要は出来ないよ」 「あぁ、わかっている」 「千朱ちゃんもどうするかな」 篝火と千朱が何を選択するか、朔夜には気がかりだった。あえて、今回のことは何も知らせずに動くことにした。選ぶのは篝火と千朱。強要することではない。 罪人の牢獄支配者銀髪――否、虚偽の目的を最初から知っていた。 幼い時から、知らされていた。その為に生きてきたといっても過言じゃない。一人ぼっちでは生きることができなかった自分たちを育ててくれた虚偽にせめてもの恩返しをしたい。 大切な人のために、力を使いたい。 虚偽が願い続けてきた、切なる想いを叶えてあげたい。 「ううん。千朱ちゃんの答えなんて、僕は知っている。わかっている。千朱ちゃんは僕らと同じ道を歩んでくれない。そんなことわかっているのにね、僕は何だか僅かにありもしない期待を抱いているみたいだ」 千朱は自分たちと同じ道を歩まない。銀髪がすることを容認出来ない。否定する。真っ向から対立する。 水渚にはそれがわかっていた。何時も何時も喧嘩して、殴り合って怪我をして一歩間違えれば死ぬような状況でやってきたけれど、それでも今回とは条件が違う。 心臓に手を当てて、水渚は心音を聞きとる。 「ねぇ水渚、水渚は千朱のことが大嫌いと同様に、大好きなんじゃないの?」 栞は呆れたように、そして今さらのように問う。水渚はきょとんとする。 一瞬意味を理解出来なかったのだ。心底不思議そうに答える。 「何を言っているんだい? 栞ちゃん。僕は栞ちゃんのことも朔夜のことも好きだけど、千朱ちゃんのことは好きじゃないよ」 「……はぁ」 栞は深いため息をつく。 「何故、僕は栞ちゃんにため息をつかれなきゃいけないのか、理解出来ないんだけど」 「うん、水渚がいいならいいんだけどね……いや、よくはないんだけど」 「栞ちゃんは、時たま謎な発言をするよね」 「俺としては、水渚の方が謎の発言を連発しているような気しかしないんだけどな」 「俺も偶に栞は謎の発言をしていると思うぞ」 水渚と朔夜双方から不思議な顔をされ、肩をすくめる。 「君たちのその不思議さ加減に俺は拍手をしよう」 ぱちぱちと手を叩くと水渚が軽く栞の頭を小突く。 ゆるい笑い声が、笑みが、何時か崩れ去ると知りながらも。 永遠がないと、笑いあえる日々が何時か崩れ去ると肌で実感したその日から。 同じでは入れないと痛感したその時から。 「何時か終わりが来るのだから、その不思議な心は治すべきだと思うけれど。まぁ俺も人のこと言えないけれど」 愛じゃなくても好きなら 恋じゃなくても好きなら 何時か離れ離れになってしまうのなら。 最後の時までを永久に。 [*前] | [次#] TOP |