零の旋律 | ナノ

V


「劣等感か……それもまた若いが故に苛まれるものなのかもしれぬの」
「かもしれませんね、貴方程妙齢になれば話は別なのかもしれません。けれど私はそこまで我慢できるほど忍耐強くはないのです、私は傲慢なのです、いえ傲慢じゃない人等いません。それと全然撤回します、劣等感は若くなくても苛まれますよ」
「お主の言葉を間違っておると我は否定せぬよ」
「貴方は単純に強いからこそ、劣等感を感じないだけです、貴方には才能があるからこそ――私の言葉を否定はできないものの肯定はしてくれない」
「……我は強くはないがの……。紅於、お主に一つ教えておいてやろう」
「何をです?」
「例え、お主の言葉が正しかったとしてもじゃ。お主は若すぎるのだ」

 雛罌粟が扇子を振るう。光の弾が無数に現れ二人を囲む。

「お主は若い、もっと待てばよかったのじゃ。けど――我とてお主相手では容赦は出来ぬのでな」

 光は檻のようにいくえにも網重なる。

「我とて攻撃術がからっきしというわけではおらぬ。お主が我の結界を解くことに躍起になっておる間に術を唱えさせてもらうた」
「何時の間に!?」

 逃げだそうにも四方八方に覆われた檻から脱出することは叶わない。
 二年の間に進化させた傀儡ではない、本体だ。傀儡であれば、死ぬことはない。代わりに本体と比べて戦闘力の劣化は免れない傀儡で勝てる相手ではないからこそ、全力を出し切るために本体で赴いた。

「お主とお喋りをしている間にじゃよ」
「くっ……」
「お主の呪術は確かに厄介じゃ、しかし食らわなければそれは意味がないのでの」

 雛罌粟は開いていた扇子を閉じる。それと同時に檻は内側に一瞬で凝縮する。光の檻は紅於の身体を容赦なく通過する。それと同時に紅於は膝をつき、息を荒くする。
 ――何をされた
 力が全て奪われたようだった。力が入らない。
 ――悔しい悔しい悔しい、私はまた、影のままだ。
 ――どうして、どうして私の周りには常に、私より上がいるのですか。

「お主の今の力ではもう戦えぬ、大人しく我に――」

 最後まで雛罌粟が言葉を続けることはなかった。紅於から反撃があったわけではない。紅於がもう反撃出来ないのを雛罌粟は知っている。
 雛罌粟が最後まで続けなかった理由は紅於の後方でサーベルを抜き、紅於の胸を一突きにした人物がいたからだ。流れるような動きでサーベルを紅於から抜き、鞘に収める。
 収める直前紅於は最後の気力を振り絞りその人物――銀髪を精一杯の形相で睨みつける。
 それと同時に力尽き、地面にゆったりと倒れる。


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