零の旋律 | ナノ

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 紅於の陰には常に雅契当主がいた。類まれなる才能で、次から次へと功績を残す。それだけではない、雅契分家には紅於より称賛される功績を残した人物たちがいた――圧倒的カリスマ性と巧みな技術で術を操る雪城家当主などの存在。何度挑戦しようと彼らの壁を乗り越えることが出来なかった。届かない存在。自分とは別の世界に住んでいる様で妬ましかった。
 研究に明け暮れ没頭しても成果は別の人たちの功績で薄れてしまう。たまらなく嫌だった、苦しかった。誰も自分を見てくれない、そう思えてならなかった。自分がどんなに力を示そうとも霞む。
 雅契分家であるがゆえに苦悩した。雅契に拘らずにその敷居を飛び越えれば紅於の功績を称賛し、たたえる人がいただろう。けれど紅於は雅契の枠から飛び越えることが出来なかった。
 雅契分家に生まれ育ったから、それ以外の景色を知らなかった。
 赤く染まり、闇に埋もれた景色しか目に映らなかった。
 心をいやす空間も、困ったときに手を差し伸ばしてくれる存在も、自分と一緒に笑いあってくれる人も、誰もいなかった。
 だから紅於は信じていない、愛や友情を、所詮そんなもの偽りでしかないと、軽蔑し見下した。
 一人でいることを好んだ。

「そこまでして光を浴びたいのか?」
「当たり前です。そんな人間的感情を抱かない人の方がおかしいですよ」

 誰かに認められたい、崇拝されたい、称賛されたい、特別視されたい。

「そうかもしれぬの……否定はせぬよ」
「私は、私がいくら優秀だったとしても、私の生きてきた世界では私の上の存在がいたんです、いくら努力しても足掻いてももがいても、決して越えられなかった。見せつけられてきたんですよ、核の違いってものを」

 だからこそ、禁じられた術を欲した。

「この牢獄では違えると思ったのに、それすら出来なかった」

 何処にいっても自分が頂点に立てることはなかった。影から脱することが出来なくて、それがどうしようも辛くて、目的を封印した。目的を解き放った今、その想いを消し去ることは出来ない。
 溢れて、溢れて、器に収まりきらなくて。

「結界術師として貴方がいた。到底叶わない紫電使いがいて、殺しても生きている支配者がいて、狂気を具現したような人がいて、頭脳明晰な人がいて、私の周りにはどうしてそういった人ばかりなのでしょうね」
「類は友を呼ぶのかもしれぬぞ。お主が優秀だからこそ、お主の周りには優秀な人が集まった、とも考えられぬか?」
「考えたくもありません」

 扇子から生み出される。扇子を艶やかに振るうたびに術は発動し、雛罌粟の結界を壊そうとする。双方とも動かない、攻撃と防御に徹している。


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