零の旋律 | ナノ

T


「貴方とは前々からどちらが優れた術者であるか、決着をつけてみたいと思っていたのです。まさかこんなにも怱々に叶うとは思っていませんでしたけれど」
「我はお主と戦うつもりはなかったのだがの」

 水波によって抑制されていた紅於の野心、その野心を紅於が思い出さなければ、雛罌粟は紅於を気に留めなかった。その事実が紅於の気持ちを高ぶらせる。

「ならば感謝しなければなりませんね、私の目的を思い出させてくれた水波さんに。流石に二年以上前の私では貴方に相手などしてもらえませんでしたでしょうし」

 力を蓄えるまで、水波が抑制してくれた、と思えば感謝の気持ちさえ宿る。

「もっともそれが命取りとなりますよ」

 余裕だった。紅於からしてみればいくら熟練の術者であろうと、八十を過ぎた雛罌粟を相手にするには問題ないと鷹をくくっていた。
 雛罌粟にとってもまたそれは同じ。たかだか十六程度の少年に何が出来るかと。お互いその認識が間違いだったと数度刃を合わせた処で気付き、認識を改める。好敵手に成りえる存在だと。
 雛罌粟は元々結界術にたけた防御中心の術者。紅於の攻撃をくらうことはまずなかったが、それでも雛罌粟の攻撃は紅於まで届かないし、届いたところで致命傷にはならない。長期戦に持ちこされればどちらが不利なのかは明明白白。雛罌粟としては早急に決着をつける必要があった。
 紅於の呪術が炸裂する。砂は腐敗速度を速め、鈍色に変色する。その様子を間近で見ながらも雛罌粟は気にとめない。呪術をくらわないように雛罌粟は自身一体に結界を貼っていた。それで呪術から身を守る。紅於は呪術が届くように、強い呪術へと術を変更する。けれども一向に雛罌粟本体に呪をかけることは叶わない。それと並行に紅於は火属性の弾を無数に作り上げ、結界を脆くしようと攻撃を加える。弾は無数に降り注ぎ、結界に弾かれ地面を焼く。
 紅於はバリエーションに富んだ術を扱い雛罌粟の防御網を崩していく。
 何重にも雛罌粟は結界を貼っていたが、二つ壊された。残る結界は三つ。全て壊されれば呪術が身体をむしばむ。
 呪術は雛罌粟にとって専門外。この罪人の牢獄で呪術の扱いたけているのは紅於しかいない。呪をかけられれば勝敗が決する。

「全く、お主も――野心を抱かなければよいものを、忘れていればいいものを」
「私は、ずっと影でしたよ。私がいくら優秀だったとしても、私の功績を常に上いく存在がいた。私はそれが妬ましかった。だから禁じられた術にも手を出した。結果は捕まりましたけれどもね、だからこそ此処では――と思ってもやっぱり此処でも影の存在、そんなものはもう御免なんですよ」


- 42 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -