第二話:存在し続けた壁 ――例えその命を奪うことになっても ――叶えてやりたい想いがある 榴華の元を去ったその足で雛罌粟は第三の街と最果ての街を繋ぐ道へ足を運ぶ。 廃墟も何もない、ただ砂だけが存在する場所で紅於が舞っていた。足を交差させ、掌を広げ回転する、その動作は可憐。一つ一つの舞いが完成されたような優美さ。扇子を広げ、硝子玉を転がす。 その時、雛罌粟の気配に気づき、舞を止め怪訝そうな顔をしながら“何故自分を呼んだのか”を問う。 紅於は雛罌粟に呼び出されていた。そしてその間の暇つぶしに舞っていたにすぎない。 「単刀直入に問う。お主の目的はなんじゃ? 答えてみるがよい。衽紅於(おくみ こうお)」 「なんだ、私の名前を知っているのですね」 「衽は呪術を得意とする雅契分家だろう?」 「そうですよ」 「そして禁忌に手をつけ、此方へ送られた呪術者」 「よくご存じで」 ガラス玉を転がすのを止め、視線を雛罌粟に向ける。余裕の笑みであり、何かを羨望している眼差し。 「泉を使って調べさせたわい、お主の扱う術には見覚えがあったからの」 「成程、泉さんに調べられては私の経歴など意味を成しませんね、隠し事が成り立たないのだから、しかし腑に落ちませんね。泉さんがいらしていたのは二年以上も前のこと。何故、その間何も言わなかったのですか?」 「放っておいてもよかったんじゃ、だからじゃ」 紅於には悪いと思いながらも雛罌粟は、念のため泉を使い紅於の経歴を調べた。紅於が何も仕出かさなければ、紅於の経歴は胸に仕舞っておく予定だった。 しかし、予定は変わった。真剣な面持ちで続ける。 「じゃが、お主の目的によっては、そうもいかなくなるものでな」 雛罌粟が紅於の瞳に気がつかなければ、この場はあり得なかった。 紅於の瞳――その瞳に野心が宿っていなければ。 閑散とした場所で、紅於は一度扇子を閉じてから再び広げる。 「……どうやら、私の目的を願いを成就させるためには、まずは貴方に消えて頂けなければいけないようですね」 扇子を一振りすると風が巻き起こる。 「私の目的を答えていませんでしたね、では答えますよ。私はこのまま終わりたくないだけです。あの人の目的なんて心底どうでもいい――むしろ邪魔です。世界を滅ぼすですって? 冗談じゃない!! 普通の人であれば、そんな戯言、井戸の中の蛙が外に向かって吠えているようなものでしょう、到底成しえないと一笑出来た! けれど、あの人がそれをいうと妙に真実味を持っている。そして、それを成し得ても不思議じゃないだけの力がある。私は、私はっ……! 本当に世界を滅ぼしてしまうんじゃないかと危惧してしまう。大言壮語ってレベルで笑い話として蹴飛ばせないんですよ。あの人はそれだけ危険だ。私は世界が滅んでほしくない、私は私がこのままで終わりたくないんです! 退いて下さい、どかなければ殺します」 最終通告する。それに対して雛罌粟も扇子を紅於に向けて返答する。 「私はこのまま此処で死ぬことも、あの人の影で日の目を見ないことも御免です! 私は私の力を誇示したいその為の礎になっていただきます」 紅於は扇子を穏やかに回す――その動きに合わせて風も動く。 [*前] | [次#] TOP |