零の旋律 | ナノ

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「……この大地を見捨てて、新たなる大地を作ること」
「そういうことじゃ。けれどこの大地を放置することも不安だったんだろうの、新しい大地を作った後の世界も。だからこそ、それらを見続けることの出来る人間が欲しかった。そしてある二人の人間が不老不死の被検体となり、不老不死となった、望まざる力じゃよ。不老不死といっても、逆らうことが出来ぬように、手綱を握っていることが出来るように痛覚や触覚、味覚などの五感などは全て残された。もっとも現在は痛みになれ過ぎて痛覚がなくなりかけているといっても過言じゃないが」
「それが、銀髪」

 だからこそ、いくら殺そうと銀髪は死ぬことがなかった。心臓を貫こうとも。
 そして、何年立とうと変らぬ相貌。もっとも容姿に関してのみを言えば、術を使っている雛罌粟も同様だったが。
 術を使っているのと、使っていないのでは大違いだ。それこそ天と地程の差がある。

「正確にはあやつの姉もだ。二人は番人として、駒として生き続けた、悠久の時を生きる人間が最後に求めるのは死じゃ。わかるだろう?」
「死ぬ――ために、いや、死ぬ最後の手段に賭けて、世界を滅ぼす」

 世界が滅びれば自分たちも死ねるかもしれない。僅かな望みをかけて。

「そういうことじゃ。だからこそこの牢獄を滅ぼし――最期の楽園とともに国に出る。そしてこの牢獄で集められた強者たちが猛威をふるう」
「そうして滅ぼすことが銀髪のシナリオ……なら、当然俺が邪魔なのもうなずける」

 例え死ななくとも、銀髪一人で滅ぼすことは難しい。捕まってしまえばそれまでなのなら。
 だからこそ、邪魔となる要因を容認出来なかった。

「そういうことだの」
「雛は、銀髪の味方か? 敵か?」
「我は味方だろうの、けれど、我には我の目的があるのだ」
「其々、其々の目的のために他者を利用しあうか、すさまじく醜く、そしてそれが人でしかない」

 意識がぼやけてくる、雛罌粟の顔が判然としない。

「我は、あやつのことを――。いやお主に話しても意味がないな、すまない。我には是からやることがもう一つ残っておるのでの、此処らで失礼する。お主は密かにこの牢獄を抜け、国へ戻るのじゃ。そして自らが選択するとよい、どうするかを。世界を守るとするもよし、国を滅ぼすものに加担するもよし、政府を滅ぼすものに加担するもよし、日和見を決め込むのもまた、よしじゃ。次に会う時は恐らく敵どうしだろうの、さらばだ」

 雛罌粟は一通りの治療を終え、榴華の元から去る。

「有難う、さようなら」

 榴華は体力を、意識を戻す為暫くの間眠りにつくことにした。
 この現実を忘れてしばし夢想の世界へ――。


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