W 「柚霧とこのまま此処で死んだところで何になる?」 「柚が、柚がいない世界で生きていたところで何もならない! 俺にとっての全ては柚霧だ、それ以外もそれ以上もない」 「それくらいわかっておるわ、我が責めているのは短絡的だということだ」 「なんだと……?」 翡翠色に戻った瞳は再び紫へ変貌する。 「矛盾したことになるが、後追いするのも構わん。けれどこの場で誰にも埋葬されることも、弔われることもなく死に、罪人がお主らの姿を見たら是幸いと追剥をするだけだ。それでもお主は構わんのか? と聞いておる」 柚霧が扇子を榴華に向ける。 「死ぬならこのような場所で死ぬのではなく、しっかりと弔ってからにしろ。柚霧をこのままこの場所で放置するだけ、かわいそうじゃろ?」 「なら、雛が埋葬してくれ、俺の遺体と共に」 「断る。お主がしなくてどうする。我ではない。お主が誰よりも柚霧を思い、柚霧を愛していたのだから、そのお主がしなくては意味がないだろうに」 「――っ」 呼吸するのがつらい。 「死に向かうのは楽だがの、苦痛を忘れて向かうなよ。忘れるな、我はお主を好いているわけではないということを、我が助けるのはお主ではない」 「――雛、俺は生きられるか?」 死ぬのは清算してから、今までのことを全て。 「我が生かしてやる。……この牢獄は間もなく滅びる」 雛罌粟が先刻榴華に扇子を向けたのは結界を張るため。結界の中で雛罌粟は怪我の箇所にさらなる結界を貼り、傷が浸食しないように手当てをする。治癒術を扱えるものはいない。けれどだから治療が出来ないわけではない。 「滅びる……だと?」 「あぁ、あやつはこの牢獄を滅ぼし、国へ罪人達を退きいれ戻る」 「なんだと?」 「あやつの目的は世界を滅ぼすことじゃ。……不老不死」 「不老不死?」 テキパキとした動きに、榴華は偶々ではない、最初から自分を生かす為に雛罌粟がやってきたことを確信する。 「あやつは、殺しても死なぬし、老いることもない。数百年の時を生きている不老不死だ」 「なんだよ、そんな話は初耳だ」 「そのことを知っておるものなどごく少数だ、知らぬと言って気にすることでもない。純粋に最初から不老不死ではないのだよ」 「どういうことだ?」 雛罌粟から語られることは今まで知らなかった事の連発。 「この牢獄は元々牢獄ではなかった。鮮やかに咲き誇る綺麗な自然豊かな場所、じゃったらしい。けれど発達した技術は国を滅ぼすものでしかなかった。大地が腐敗し、人々は住むことが出来なくなっていった。その時国のトップに立つ人間たちは考えた、この国を生かす為にどうすればいいのか」 [*前] | [次#] TOP |