零の旋律 | ナノ

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「一つ、聞いておこうか、榴華。何故ネオと唯乃を殺すことなく見逃した?」

 抹殺の命令を遂行することなく見逃した。結果は変わらなかったとしても。

「あの二人が柚の障害になるとは思えなかったからだ!」

 話すのも煩わしい、怒りだけが混み上げる、それでも言葉を交わしているのは怒りを維持するため。紫電を使いはたして力尽きないために。
 力尽きても戦うために。
 紫電で全てを焼き尽くすために。

「まぁ俺が命令したからって、それを遂行しなきゃいけないってこともないからね。だが、柚霧に本当に間接的にでも害を成さない存在だと思ったのか?」
「どういうことだ?」

 紫電の槍が銀髪の両手を串刺しにする。しかし紫電の槍はすぐに消え去り銀髪の腕も再生される。

「ネオの目的は心臓を手に入れた後、罪人の牢獄に復讐するって目的があった。そして唯乃は主に加担し続ける、そしてネオの目的が達成された時、死ぬことを決めていた。柚霧に害が全くない存在だとは到底思えないが」

 罪人の牢獄に復讐する目的があったのなら、間接的に柚霧に被害が及ぶ可能性がある。遊月の危うさを榴華なら気がつくと、もくろんでいた銀髪の目論見は外れた。
 それ自体が銀髪の目的を揺るがすものではないが故に、放置していたのもまた然り。

「興味ないな、今はお前を殺すだけだ!!」
「残念だよ、榴華」

 残念の欠片もなく心意のない言葉を口にする。
 サーベルを振るう、榴華にとって交わすのは容易い。紫電の蹴りをかませばサーベルは硝子のように簡単に壊れる。しかしサーベルもすぐに復活する。
 ――柚霧、柚霧、たった一人の大好きな人。
 ――柚霧の笑顔を永遠に眺めていたかった。

 銀髪と榴華が死闘を開始してから早三時間、榴華は明らかに疲労の色合いを強くしていた。

「はぁはぁ」

 身体はとうに限界を迎えている。一歩踏み出すだけで気が遠くなるようだ。
 一方の銀髪は余裕綽々といった表情で汗一つ見せない。全く疲れていないのだ、否、疲れる体力が最初から存在していない。

「言っただろう? 戦闘能力では榴華の足元にも及ばないが、俺は負けないと」

 どんな強敵だろうと体力に底がある限り、いつかは疲れ果て、力尽きる。銀髪はただ、その時を待てば良かった。疲れ果てた頃なら自分でも相手を仕留めることが出来ると。
 サーベルが榴華の胸元を貫く、視界でははっきりと捉えることが出来た。その程度の速度、それなのに身体は動かなかった。
 赤く散らし、銀髪がサーベルを抜き、鞘に仕舞うのと同時に榴華は地面に倒れる。砂が赤く染まる。真っ赤な花のようだった――。


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