零の旋律 | ナノ

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「はぁ!? 何を言ってんだ、ふざけんじゃねぇぞ」
「此方と大真面目だ、わかりやすくいってやろう。榴華のその驚異的な戦闘能力が厄介、ということだよ。俺にとってじゃない、俺と姉さん以外の人間にとって厄介という意味だ」
「わけわからねぇことぬかしてんじゃねぇ!! 銀髪!!」

 柚霧を殺した人物――銀髪は榴華の怒気をもろともしない。最初から榴華が怒り狂って此方に向かって来るのは予想済み。榴華を自分の駒として扱えれば良かった、しかし榴華を駒として扱うことが出来ないとわかった。不確定要素なら今この場で殺す必要があった。
 自分たちの計画を遂行するために――不要な駒を抹殺することに決めた。
 銀髪はサーベルを抜く。単純な戦闘能力では榴華の足元にも及ばない。

「榴華の戦闘能力に俺は足元も及ばないだろうけれど、俺は負けない。最後にはどうあがいたって俺が勝つんだ――もっとも僕を殺せるのならばそれは喜んで殺されてあげるけれどね」
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな」

 榴華は呪文のように同じ言葉を唱える。瞳の色は紫と変貌する。紫電が周囲一体を容赦なく覆い尽くす。
 紫電の一撃が銀髪の身体を直撃する。一撃で死にいたるだろう威力を誇ってしても銀髪は何もなかったかのように復活する。服から何から、元通りに、怪我ひとつない。
 それでも銀髪は攻撃に移る余裕はない。容赦なく轟く紫電を交わすことも、反射速度が追いつかず到底出来ず、くらう。くらうくらうくらいくらう。けれど、死ぬことはない、何度だって何度も蘇る。砂埃が舞う。毒の砂を気にするものはこの場にはいない。 怒りが、策略が、交差する。
 銀髪は、榴華を駒として扱おうとして、到底御しきることが叶わないと知った。だからこそ、敵になる前に始末をつけようとした。

「柚霧に持ちかけたんだよ、この牢獄を榴華と共に出ようと、しかし柚霧は榴華がそれを望んでいないし、私もそれを望んでいないからいいといって拒否した。お互いお互いを思いあう相思相愛。ま、恋愛関係では最後までなかったけれどもね。何をいっても柚霧は首を縦に振ることはなかった。頑なに拒んだよ。そこまでして榴華が嫌った故郷を同様に嫌っているとは予想外だったよ」

 榴華の力を忌み嫌った人がいた、それは街の人々。
 榴華の力を忌み嫌わなかった人がいた、それは柚霧。
 だから榴華は自分に初めて微笑んでくれた――自分が紫電の力で傷つけられるのも構わずに近づいてきてくれた柚霧を守ると誓った。
 ――それなのに、それなのに、なんてざまだ。
 守られてばかりで、守る前に殺された。

「だからって殺すことはねぇだろうがよ!!」
「不確定要素を容認出来る程、榴華の力は弱くないってことだ。今後何があったら面倒だからね、この牢獄内で始末するなら始末したい」
「誰が負けるかっ」

 ――否、本当は最初から勝敗なんてないのかもしれない。
 それでも挑まずにはいられない。それでも戦わずにはいられない。


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