第一話:最愛の人 動き出した歯車は、誰にも止められない。不確定な結末へ向けて、廻る。 時を遡ること数時間前。 榴華は自宅で荒れていた。何時もなら当たり前のように傍に居続けた柚霧がいない。 その事実が榴華の心を蝕む。柚霧が自分に何も告げずに何処かへいくとは到底信じられなかった。 此処に来てからずっと――そうしてきた。今さら忘れるなんてことはあり得ない。 何処へ柚霧はいったのか。 心配で心配でたまらない。その心配が、制御出来ていたはずの紫電の枷を外す。榴華が手を触れた木材の箪笥は一瞬で砕け散り、壁は亀裂がはしる。榴華の周辺は、榴華の意識しない紫電の被害にあう。 自宅に留まっていても意味はない、榴華は階段を下り、外に出る。やけに静か。嵐の前触れか。 しかし、冷静さを失っている榴華にとって、気がつける事実ではなかった。 柚霧は何処か、それが行動を支配している。 大切なのは柚霧だけ、他には何もいらない。何も――求めない。 「ゆ、ゆ、ゆずっ――!!」 榴華は叫ぶ。柚霧を探し出し、三十分が経過した頃合い、柚霧を見つけ出した。最悪の形で。 心が拒絶する。何も見たくない――何が起きた――誰が何の目的で、混乱する、何度瞬きをしても、現実は変わらない。柚霧は地面に横たわっている。腹部は赤――血で染まっている。一目見ればわかる、もう生きていないと。変わり果てた姿と化した柚霧。 これが夢であればいいのに、悪夢だ、早く冷めろ。そう何度願おうと――現実は変わらない。 砂に膝をつく。此処は第一の街と、最果ての街を繋ぐ道。廃墟と化したコンクリートが周辺に散らばっている。そこで、見たくないものを見た。辛うじて形を保っているコンクリートの上に、頬杖をついて座っている人物がいる。 「お前っ! 柚に何をした!!」 怒りで目の前が真っ白になる。それでも必死に理性を維持する。柚霧に何があった、柚霧をどうした。何もかもがわからない。 ――柚霧に何をした。 「何をしたって、殺した」 あっさりと告げる。それ以上の会話は不要と榴華は飛びかかる。理性も何もいらない。 ――柚っ!! 悲痛と憎悪、激怒、様々な感情が入り乱れた瞳。 榴華の紫電が砂を抉る。前もって予知していたように、大げさともとれる動作で彼は移動する。 「本当のことを言えば殺すつもりはなかった。柚霧の願いなら榴華は何でも聞くからね、それはもろ刃の刃。此方側に転がらないのなら用はない、ということだよ」 [*前] | [次#] TOP |