零の旋律 | ナノ

第七話:水面下


 永久にも思える年月をただ一つの目的を果たす為に費やしてきた。
 その目的を『果たそう』
 万全とは最良とは決していい難い舞台で。
 ――いいさ、物語に予想外はつきもの、全て予定調和内。
 ――覆い隠してきた闇の歴史も、腐敗も復讐も、怠惰も傲慢も、愛情も愛憎も、全て宝玉の中に包み込み、そして解き放とう。
 切実に願い続けた目的を叶えるために。

+++
 朔夜誘拐事件から一週間後。
 その後朔夜が誘拐されることもなく、いつも通りの日常を篝火は過ごした。
 パンを一日一回食べ、朔夜にまたパンかと半ば口癖と化しながら呆れられ、ご飯の支度をし、朔夜の面倒をみる。朔夜の長かった髪の毛が短くなったお蔭で、以前より髪の毛にかける手入れの時間が減った。
 掃除をして部屋を綺麗にする。たまに外出しては千朱と水渚の喧嘩するほど仲が良い場面を目撃し、栞が包帯男と半ば化している事態を目撃する。
 柚霧の手料理を御馳走しにお邪魔した時の恨めしそうな榴華の視線を無視したり、他愛ない日常。
 刹那の時とも思えるほど短く、そして悠久の時を願うほど楽しく。篝火は何度目かわからない思いを心の中に抱く。

 此処はまかり間違っても罪人の牢獄であって国ではない。
 けれど、人は何処まで進もうと人でしかなく、結局バランスなのだと。
 罪人で構成された罪人の牢獄内で、また善悪が別れる。悪逆非道の行いをするものもあれば、秩序よく日々を過ごすものがある。見方を変えれば場所が変わっただけで、そのものは何も変わっていないと。集団で入れば差が出来るのは当たり前。同一の者はないのだから。

 篝火はいつの通り、お馴染みのパン屋に足を運び、香ばしいパンに食欲をそそられながら帰宅する。
 しかし朔夜は外出中なのか留守だった。

「二人分買ってきたがまぁいいか、俺一人で食べよう」

 独り言をいいながらパンを食べる準備をする。パンを食べるときそのままではなく、一度皿に映してから食べるのは篝火の性格だ。
 朔夜がいない間に最近はあまり掃除していなかった朔夜の部屋を片付けようと決める。朔夜は引きこもりであり、さらに引きこもっている時間の大半は自室にいる。
 部屋から追い出そうとしても面倒の一点張り、だからこそ朔夜が自主的に外出している今がチャンスと掃除道具を両手に、エプロンを装備して朔夜の部屋に挑む。

「(そういや俺っていつから掃除とかするようになったんだっけ)」

 記憶をたどってみると理由は簡単な程あっさり見つかった。
 汚いのが嫌だったから。泥棒として生活が出来るようになる前、幼いころの自分と同じような境遇の者とグループのような形で自然と集まり、身を寄せ合って生きてきた。
 一人では既に死んでいただろう、自分たちより少しばかり年上の少年を兄として慕い、仲間と一緒に今日を生きるために盗みを働いた。捕まれば一環の終わり、余裕はない。
 盗む為の技術もそこまで身についていない状況での盗み、ましてや少年であれば体力的にも大人にはどうしたって勝てない。力も知恵も何もかもが。
 また一人、また一人と仲間が入れ替わっていく。増えては減って、減っては増えて。なくなることのない連鎖。


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