T 「だろうね。君が全力でくれば僕に勝ち目はないし」 「……お前さ、櫟の時……」 「櫟……櫟を誰が殺したか今でも知りたい?」 嘗て、悧智がまだ白き断罪第二部隊隊長でなかった頃、その当時の隊長は殺された。犯人を水波は知っていた。けれど当時悧智に教えることはなかった。 悧智が殺される可能性を危惧して、勝率を無視した。パーセントで考えれば悧智の方に天秤が向いていたのを知っていたとしても。 「あぁ、勿論だ」 時は流れた。あの時より双方の力は増大している。水波勝率を自然と脳内で計算する。 しかし、双方の実力を完璧に理解していない現状で正確な勝利を導きだすことも出来ない。 「志澄律」 「――律!?」 「あら」 嘗て白き断罪第三部隊として、白圭の部下として罪人の牢獄にいたものの名前。もっとも名字の方を悧智は初めて聞いたのだが。 「あ、あいつが!? どういうことだ、詳しく説明しろっ」 「僕も当時は知らなかったんだけど、僕が牢獄に言っている間に、律君は白き断罪に一時在籍していたんだね」 「あいつ、櫟を殺しておいてそれでもいて平然と白き断罪にいたのか!? いや、それだけじゃない……あいつは俺の部下も殺した」 復讐の炎がより一層強く燃え上がる。 「ふーん、それにしても律の名字が志澄とはね、嫌な因果だわ」 悧智とは対照的に冷静な砌は律の名字について思案する。 「……因果とはどういうことだ?」 砌の一言で悧智は冷静さを多少取り戻す。 「夢華の名字が雪月だったでしょ? 夢華は雅契分家の人間よ。志澄は玖城家に仕える騎士の家系。もっとも死霊使いとしての名が広がりすぎて、そっちの意味は廃れちゃったけど」 「死霊使いの名は聞いたことはあるが、騎士ってのは初耳だな」 「まぁねぇ。それに――舞も雅契分家の人間だったしね」 「そうなのか?」 「えぇ、楽羽家の人間だったから。何だかわらわらと分家の人間が多いことね」 砌は嘲笑する。足を組み直す。 「そりゃ、確かに何とも言えない因果だな」 「そうね。で貴方は律に復讐をするのかしら?」 「あたり前だろ。お前の目的はカイヤだっけか?」 砌も悧智も二年間復讐をするために動いていた。砌は白き断罪を辞め、各地を放浪しながら時を待つ。 悧智は白き断罪第二部隊隊長として各地で活躍しながら、力をつける。復讐をするために。 「えぇ。そうよ、だから私は貴方と行動を共にしているのだから」 密会を何十回も繰り返した。 「まぁ、その辺を僕は詳しくは知らないけれど詮索はするつもりはない。僕の目的も復讐だからね」 愛はあった、けれどその愛は憎しみで塗りつぶされた。 腐敗して堕落しきっていたとしても、愛していると思えた場所も今は憎しみの対象でしかない。 「――さて、後はあちら側が動き出してくれないと」 水波は立ち上がり、窓の外を眺める。ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。天候の悪い天気もまた復讐を促進するようだった――。 [*前] | [次#] TOP |