零の旋律 | ナノ

V


「ごめんね、何だか手伝わせているみたいで」
「いいよ別に。……というか気が済まない」
「ん?」
「こういった部屋を見ると綺麗にしないと俺の気が済まなくて」
「何、君は綺麗好きだったんだ。まぁそれっぽいとは思うけど」

 くすくすと笑いながら水渚も掃除を続ける。
 是から住むとなると多少綺麗にしてからでないと水渚自身あまり住みたいとは思えなかった。篝火という力強い掃除仲間が出来たのは心強かった。

「そういや、僕さぁ、最初千朱ちゃんと出会った時、男だと間違われたんだけど、僕ってそんなに女っぽくない?」
「いや、別に女っぽくないわけではないと思うが」
「まぁ千朱ちゃんに間違われてちょっと対抗意識が芽生えたから服装も少しは変えたんだけどね。それに」
「それに?」
「千朱ちゃんが僕の先が白くなる髪の毛面白いじゃんって好いてくれたから髪の毛も伸ばしちゃったしなぁ」

 元々は短かったんだよといって手で髪の毛を隠す。

「代わりに朔が髪の毛短くなっちゃったけどね」

 他愛ない会話から、これまでの経緯、様々な会話しながら掃除をするとあっという間に夕方になった。

「あ、夕飯作ってねぇやそういや」
「朔のかい?」
「あぁ。まぁ偶には自分で作るだろう」

 区切りが悪かったため篝火は自宅へは戻らず、水渚の家で夕飯をすませることにした。水渚の代わりに台所を占領して料理を作る。
 部屋の状態もそこそこ綺麗になってきた。この分なら今日が終わる前に片付き終わる。

「篝火のお蔭だね。僕一人じゃ明後日までかかっていたよ」
「どうも」
「本当に君はよいお母さんになれそうだね」
「ん? まて俺は男だ」
「わかっているよ」
「いや、間違えられたら困るから」

 そもそも間違える要因は一つもないよと水渚は笑いながら返事をする。
 笑っている、その事実が篝火には嬉しくて仕方がなかった。

 その日の夜、日付が変わる頃合いに篝火は帰宅する――と玄関の前で怒りを露わにした朔夜がまっていた。

「何、これ」

 篝火は何かを言おうとして結局意味のわからない言葉になる。

「てめぇ、パン屋にいったんじゃねぇのかよ!!」
「パン屋に行こうとしたら水渚にあったから、水渚の自宅を掃除していた」
「うっ」

 水渚の名前ひと言で大人しくなる朔夜。

「もしかして夕飯食べてないのか?」
「お前が戻って来るだろうから食べているわけないだろう、第一料理作るの面倒だし」
「作れよ!」

 こんな時間にまで待っているなと叫びたくなる。融通が効かないのか面倒なのか、恐らく後者だろう。後者以外はないだろう。

「ってなわけで夕飯作れ」
「あーはいはい、わかったよ。ならとりあえず此処を通せ」

 玄関で陣取られていれば廊下にも上がれない。朔夜は夕飯が作ってもらえると知り、その場を素直にどく。
 その後篝火はあり合わせの食品で料理を作り朔夜に食べさせてから就寝した。


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