零の旋律 | ナノ

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「知っているでしょ? 朔がこの街で育ったことを。幼子が一人で生きていけるわけじゃない。栞ちゃんと一緒でも栞ちゃんもまた幼いのだからね。朔がこの街で今日まで安全に生きて入れたのはあれが、朔の面倒を見ていたからだよ」
「成程な、それだと今まで色々疑問に思っていたことも納得出来た」

 銀髪のことを色々知っているのもまた然り。

「ならもう一つ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「栞は一体いつから罪人の牢獄へ?」

 朔夜が心を許している相手であり、朔夜のことを大切に思っている。それだけではない会話の間間に長期間罪人の牢獄にいる節が見えた。

「あぁ、栞ちゃんは正式には罪人じゃないからね」
「どういうことだ? この牢獄で生まれ育ったということか?」

 朔夜と同じように。しかし水渚は首を横に振る。

「その辺のことは、僕はまだ朔たちのことを知らないから何とも、なんだけど。確か朔が五歳だったかその頃に両親がいなくなってね、一人になった朔がさびしがったんだよ。“友達”を見つけることもこんな場所じゃ叶わないでしょ? そもそも同い年なんて可能性が零に等しい程いないだろうし」

 罪人の牢獄、罪を犯した人が送られる場所。

「だから、あれが栞を国で見つけてきて連れてきたんだよ」
「それって誘拐?」
「ううん。違うよ。栞ちゃんから聞いた話だとね、時を同じくして栞ちゃんを育ててくれた母親が賊によって殺されたんだ、そして栞ちゃんは無意識化で賊を皆殺しにした」
「――っ」
「その後呆然とたたずむ栞ちゃんの前に罪人の牢獄支配者が姿を現し、誘ったんだ。栞ちゃんも朔も両親がいなくなったばかり、仲良くなるのに時間はかからないでしょ」

 お互いがお互いの傷を癒すように。
 銀髪の目論見は成功した、朔夜は明るく笑うようになり、栞もまた同様。

「だから、栞ちゃんは罪人ではないんだよ。まぁ僕も正確に言えば罪人ではないんだけどね」
「そうなのか?」

 色々罪人じゃないのが紛れすぎだろ、と篝火は密かに思う。

「僕も朔と同様。あり得ないようなね、罪人同士の恋によって生まれたから。だから僕にとって此処は朔同様故郷なんだ」
「そうだったんか」
「そう、だから僕も朔も砂の毒は効果がないんだ、栞ちゃんも殆ど聞かないはずだよ」

 環境に身体が慣れた結果。毒は意味を成さなくなった。

「成程な、だからこそお前は崩落の街によく足を運んでいたのか」

 毒が効かないのなら長時間滞在したところで死ぬことはない。

「そういうこと」

 水渚の自宅で荷物整理を成り行きで篝火は手伝っていた。
 最初は勝手に荷物を開けることに躊躇したが、水渚が勝手にどうぞと許可した為、その後も手伝っている。部屋の状態はお世辞にも綺麗とは言えなかった。篝火の掃除本能により掃除を開始している。


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