零の旋律 | ナノ

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 闇の中、頬杖をついて、思案する。

「ねぇ泉。そろそろじゃない?」

 灯りを一切灯さない室内に、仄暗い灯りが宿る。泉はうっすら目を開き、灯りの先を見る。
 室内には泉を含め三人の人物がいた。仄暗い灯りの光を受け、発光するような白髪に、泉は目を細める。眩しいと。闇に慣れたその瞳にとって白は眩しかった。

「だろうな」
「だよねぇ。まぁこっちも準備に抜かりはないから何時でも問題ないんですけどー」

 白髪の持ち主――雅契家当主雅契カイヤは、壁を背もたれにしながら、けらけらと笑う。何処までも無邪気に。

「まぁ双方準備に時間をとられるのは仕方がないってことだろ?」

 カイヤの笑みとは対照的な邪悪な笑みを最後の人物――律が浮かべる。

「まっ、そりゃそうだけどね。ふわぁ僕眠いよ。僕は泉と違って夜行性じゃないから規則正しい生活しないと活動出来ないんだ」
「お前はいくつだ」
「泉と同い年―」

 カイヤの無邪気さだけを見れば、ただ遊びに来たようにも見える。

「ふふふ、さてどうなるかね。布石は三個あるんだっけ?」
「あぁ」
「なら、も一個もそろそろ動き始めないときついよ。ねぇ――水波」


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 罪人の牢獄、千朱と水渚が再会した次の日、水渚が両手一杯に荷物を持って第一の街に現れた。

「水渚、なんだよその大量の荷物。持ってやるよ」

 その姿を目撃したパン屋へいく途中の篝火が、水渚の荷物を持つ。
 此処まで一人で運んできたのかと疑問に思う程、荷物が重かった。

「是から僕は第一の街にお引っ越しなんだー。榴華にはもう手筈を整えて貰っているよ。まぁ幸いだったのは僕の荷物が少ないことかな。これなら何往復もしなくて済むからね」

 元々、どちらでも良かった水渚だ、必要最低限以外のものは必要なかった。必然的に引っ越す荷物も少ない。

「じゃあ、千朱と近所に住むのか?」
「はぁ?」

 不思議そうに、そして心底嫌そうに篝火の顔を見る。

「なんで僕が千朱ちゃんと近所に住まなきゃいけないの」
「……一緒に住むのか?」
「それこそ御免だよ! 何その四六時中千朱ちゃんの顔を見れるとか。なんのいじめですが。全く。僕は千朱ちゃんと反対側の家に住むんだよ」
「ややこしいなぁ」

 心底そう思う。
 笑いあいながら、楽しそうにしながら『大嫌い』という二人を。

「そう? 元々僕らはそうだったし。僕が勝手に引っ越ししただけだからね」
「まっ良かったけど」
「有難う。結局僕らはお互いに生きたままだったね」
「全くだ」

 会話をしているうちに目的地に辿り着く。最果ての街よりも状態がいい建物の中に入る。
 朔夜と一緒に住んでいる篝火にとっては狭く感じる家だったが、それでも一人暮らしなら充分の広さを誇っている。
 
「こうやって思うと朔夜の家がどれだけ広いかを実感するな」
「朔は特別だからね」
「特別?」
「あぁ、君は知らないのかな?」
「何をだ?」
「朔はね、朔の両親がいなくなった後、罪人の牢獄支配者に育てて貰ったんだよ」
「――!?」

 初耳だった、それだけに唖然とする。
 そして納得した、今まで不思議に思っていた数々を、朔夜が王族だけだからじゃない。朔夜が銀髪に対して寂しそうな表情を見せたりすることの理由を。


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