零の旋律 | ナノ

第五話:刻


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 エカルラート、それは国の名称。しかしエカルラートと呼ぶものは極僅かであり、普段は国や、政府などで呼ばれる。
 貴族と政管による政策が取られる。王族は存在しながらも王族や貴族とは別のところで軍人や政府が存在し、それぞれがそれぞれの役割を果たし国は成り立っている。

 国のとある場所。
 銀色の髪は非常に長く、足首まである。蒼く澄んだ瞳が不機嫌そうに周囲を見回す。窓から見える景色は曇天とした曇り空。雨が今にも降り出しそうな天気だ。

「どうしたんですか? 銀」

 部屋の中には二人の人物がいる。そのうちの一人、水色の髪をボブカットにし、くりっとした瞳は可愛らしさを相手に与える。白を中心とした服に身を包み、ゆったりとお茶を飲みながら、窓辺にいる人物へ話しかける。

「いいや、なんでもないよ、翆」

 銀と呼ばれた人物は、翆に声をかけられた瞬間、不機嫌な顔から一変して笑顔になる。

「そうですか。ならいいですけれど」
「それより翆、俺は翆の料理が食べたい」
「わかりました。何にしますか?」
「翆の料理はどれも美味しくて好きだから、どれでもいい」

 まるで他の味を知らないように、答える。そこに一抹の不安を覚えながら翆は備え付けの台所へ移動する。
 白を基調とした造り部屋は何処か静かで。人によっては寂しさを覚えるだろう。翆は手慣れた手つきで料理を作る。此処は銀の為に容易された空間、だからこそ本来ならないはずの台所が備え付けられていた。

「そういえば、泉や律、カイヤが何か企んでいそうですよ?」

 会話の種に、“同じ彼ら”のことを口にする。

「あいつらが企んでいるのは何時ものことだろう、そして碌でもないのもまたいつものこと」
「そうかもしれませんね」
「ってかそれ以外あり得ない」

 更生することは、例え死んでもあり得ない、そう断定する。

「見ている世界が狭いですから……私も、銀も彼らも」
「世界を広く見えるやつは怱々いないさ。俺にとっては翆が全てだ、翆が入ればそれでいい」

 断言する銀に翆は寂しく笑うだけ。

「まぁ碌でもないことは確実だが、何をしようかをわざわざ探るのは面倒だからいいや」

 此処での会話も、泉にとってはその場で聞いているのと変らないと銀は付け足す。だからこそ情報屋であり、泉の力。
 そうですね、と翆は同意した後、料理に集中する。他の味を知らないのなら、せめて美味しいものを食べさせてあげたい。

「まぁ翆に危害を加えようってなら俺があいつらを殺すだけだが」
「物騒なことはしないでくださいね」

 やんわりと釘をさすが、その言葉は銀に届かない。届かないのを知っていても言わずにはいられない。
 銀――本名、白銀怜都。暗殺者を統べ、七大貴族の位置に冠している貴族だ。


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