零の旋律 | ナノ

最終話:銀色の欠片


 全ては崩壊へ進む。世界を彩るは白銀。茜色の空は変色をし、血の赤へ変貌する。そして浄化によって色味を無くしていく。
 音を立てて硝子が崩れるように、世界は赤銀の欠片を散らす。
 最早生きている者は死に場所と決めた広場にいる彼彼女らだけだ。他はすべて最期の楽園によって死に絶えた。
 静寂な空間の沈黙を破ったのは銀髪だった。

「雛罌粟」

 銀髪は雛罌粟を殺そうとして白銀に輝くレイピアを向けようとしたが、手が震える。唯一の、不老不死であることを認めてくれた人をこの手で殺すことが辛かった。だが、震える手に優しく手を重ねる温もりがあった――虚だ。

「お前が殺す必要はない、雛罌粟は私が殺す」

 銀髪には雛罌粟を殺して欲しくなかった。それが虚の本心だ。
 全ては愛しの弟のために、虚は銀の粉で白銀の剣を生み出す。
 鳥の鳴き声もない世界。人の会話だけが、世界を支配する。
 今この時、この空間だけは虚の結界術で守られていた。それ故に、最期の楽園による浄化はまだ及んでいない。結界を解除した時、この世界全てが浄化され世界は滅ぶだろう。既に、結界の外に映るそれは夢幻のようであった。

「それも無用じゃ」

 虚が突き出した白銀の剣を雛罌粟は扇子でやんわりと押し返す。

「我の命、お主には背負わせぬよ」

 雛罌粟が淡い光を放つと、その姿は変化していき、銀髪にとって懐かしき姿となる。それは――最初に出会ったころの容姿であった。

「雛罌粟……」
「虚偽、それに虚よ。世界を滅ぼしたのじゃ、死ぬのじゃよ」

 雛罌粟は自ら命を絶つことを決めていた。虚偽にも虚にも自分の命は背負わせないと。

「うん……さようなら、雛罌粟」
「さらばじゃ」

 躊躇なく雛罌粟は結界の外へ飛び出す。途端、最期の楽園によって浄化される身体は、次第に分離していき華を空間へ散らす。

「さようなら、雛罌粟」

 最期の姿を目に焼き付けた虚は瞼を閉じてから、ゆっくりと開く。刹那、結界を解除する。
 転瞬して清浄な空気に満たされる。
 あらゆるものが、浄化されていく光景。
 全てが塗り替えられていく世界。

「さぁ、終わりを迎えよう、私たちの物語に」
「そうだね……姉さん」

 虚は優しく虚偽を抱きしめる。
 不老不死の枷から解き放たれるために、最期の希望を込めて――そして世界の欠片が、零れ落ち浄化された。




END



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