零の旋律 | ナノ

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「っとにめんどくせぇ」

 怜都は面倒が口癖な程、面倒事を嫌う。だが、大切な人を守るためならば別だ。卓越した体術で連撃を仕掛け、服の中に仕込んであった拳銃を取り出して牽制に使う。
 どれだけ銀髪を傷つけても銀髪は倒れることはしない。最期の楽園の脅威が迫っている。海璃は矢に魔術を込めて放つ。雛罌粟は邪魔をしなかった。雛罌粟は結界術と攻撃魔術を併用して銀髪の援護をしているため、海璃に構っている暇はないのだろう。
 終わらないと思われる攻防が続く、それでも結末は訪れる。

「なっ――」

 怜都は驚愕するしかなかった。雛罌粟が投擲してきた魔術の籠った扇子を避けた時、油断したわけではない。それでも――戦いにおいて負けるとは思っていなかった。それなのに銀髪が自分の身体を突き刺したのだ。滴る血がやけに非現実的で
 ――あぁ、死ぬのか?
 咄嗟に伸ばした手は海璃の方へ向いていた。

「怜都!」

 海璃は怜都の手を握ろうと駆けだすが、間に合わず怜都の手は下にたれる。銀髪がレイピアを抜くとそのまま地面に倒れた。
 銀髪は荒い呼吸を整える。雛罌粟がいなければ本当に負けていたかもしれない、そう思わせるほどの実力者であった。雛罌粟は最後に武器として投げた扇子を地面から拾う。

「さて、怜都も繚もいない今、君に勝ち目はない。どうするんだ? 逃げるなら、邪魔はしないけど」

 別に情けをかけたわけではない。ただ、何となく口をついて出てきた言葉だ。

「……疑わないんだね」

 海璃の瞳は銀髪を見据えていた。慈愛に満ちた、そんな瞳。
 ――あぁ、だから怜都は海璃に惹かれたんだ
 何故、暗殺者である怜都が他人を愛したのか理解が出来なかったが、海璃の瞳を見て唐突に理解した

「疑いませんよ。言ったでしょう? 私に嘘は通用しませんから」
「そ。でどうするんだい?」

 否、聞かなくてもわかる質問だった。海璃の瞳は真剣に銀髪を見据えているのだ。その時点で答えなんて一つだ。
 繚と怜都の頭を海璃は優しく撫でる――その間、銀髪も雛罌粟も黙っていた――それから弓矢を構え、凛とした声色で断言する。

「私がここで退くわけないでしょう!」

 朗らかな表情に銀髪は一瞬レイピアを握るのをためらう。それでも邪魔をするものは

「僕たちの願い、邪魔しないで貰おうか」

 ――邪魔するものは殺すだけだ。
 感情を押し殺して銀髪は無情に刃を振る。しかし――死してなお、海璃の表情は揺るがなかった。


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