零の旋律 | ナノ

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「……成程、結界術師を動かすことを優先したのか」

 かすり傷程度、怜都にとっては蚊に刺された程度のものでしかない。だから怜都は気にしない。だが、繚はそうはいかない。
 だから銀髪はわざと繚が目に入る範囲で怜都に一撃を――どんな軽い攻撃でも構わないから――与えることを優先していた。自分一人では怜都には到底勝ち目がないが、それでも雛罌粟が傍で協力してくれたら何とかなるような気がしていた。本来なら、白銀怜都という危険人物と雛罌粟が刃を交えてもらいたくはないが、そんな我儘を言っていられない状況であったし、それに雛罌粟の実力は雛罌粟以上に銀髪は信頼していた。
 怜都はすぐさまクナイを両手から無数に袖を振ることで投擲するが、それらは悉く地面に落下した。

「ちっ結界か」

 怜都はたまらず舌打ちをする。攻撃を仕掛けようとしてもある一定の範囲で結界によって弾かれる。
 結界に対処する一番の手段は魔術による高威力の攻撃だろうが、魔術師ではない怜都にそれは叶わない。体術と武術で何とかするしかない。そう思った時だ、海璃の矢が雛罌粟の結界とぶつかりあい、相殺した。
 これ幸いと怜都は足に力を入れて跳躍して一歩で雛罌粟の下に近づく。

「雛罌粟!」

 それをかばったのは銀髪だ。雛罌粟を抱きしめる形で怜都に背中を見せる。その時怜都はクナイを武器にしていたことが失敗だと悟りすぐさま距離を取る。それが長剣であれば銀髪の身体もろとも雛罌粟を貫くことも可能だった。しかし、怜都は長い獲物は持ち歩かない。服の中に隠しておくのが難しいからだ。

「悪い、折角翆が結界を破ってくれたのに」
「大丈夫ですよ」
「……とに面倒だよな、不老不死ってのは」

 それでも怜都はまだまだ余裕だった。激しい攻撃を休む暇なく繰り出した所で、それでも怜都の息は乱れていないのだ。人の目で追えないほどの素早さで怜都は銀髪の背後を取る。雛罌粟は既に距離をとっていた。銀髪は背後からクナイで切り裂かれた衝撃で前のめりになる。再び切り裂こうとした時、結界に阻まれる。怜都は気配だけで雛罌粟の位置を特定して、そのまま背後を振り返ることなくクナイを投擲する。しかし、雛罌粟の結界に阻まれた。銀髪がレイピアを横に動かした時、怜都は足でレイピアを蹴りあげる。

「なっ」

 空中で体制を立て直し。怜都はそのまま新たなクナイで銀髪の頭を狙った時、雛罌粟の光の弾が周囲に浮く。

「ちっ」

 すぐさま怜都は銀髪の肩を台にしてその場から離れる。怜都が狙った場所では光が交錯して銀髪を守る盾となる。結界ではない。
 怜都が地面に着地したところを見計らって銀髪のレイピアが怜都の足を貫いた。だが、怜都はそれを気にせずに銀髪の鳩尾を蹴る。その瞬間、光が怜都を襲う。

「怜都!」

 海璃が思わず叫ぶ。怜都は腕で目を咄嗟に守った。素肌の部分は赤く染まっていたが、怜都はそれでも気にした素振りを見せなかった。


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